練馬区立美術館『式場隆三郎 腦室反射鏡展』へ行く。2020.10.18
今回も練馬区立美術館の展示には外れなし。
ポスターは随分気合が入っている。
式場隆三郎についての知識ときたら、藤田和日郎の漫画『双亡亭壊すべし』の双亡亭のイメージモチーフである実在した怪屋敷“二笑亭”の本『二笑亭綺譚』の作者という以外は何も知らない(しかも未読)。まあ基本、自分は何も知らないが何も知らないからこそ見に来たのである。間違いではない。
式場隆三郎は大正〜昭和にかけて精神病理学の研究者で、本筋の研究のみならず文芸、芸術、民藝と多岐に渡り執筆や活動をした人物である。日本にゴッホ(炎の人)を知らしめたり、山下清(裸の大将ことおにぎりがほしいんだな)を世に出したりとプロデュース能力にも長けている。200冊も執筆したと云う著書は三島由紀夫にも影響を与える程の元ネタさんとしての膨大な知識を有する。民藝活動においては本の編集にも携わったりして交流関係も広く【大正コソコソ話】が尽きる事がなさそうな人物である。
精神病理学の研究者の視点で芸術活動を捉え、日本におけるアウトサイダーアートをいち早く認識して紹介するなど、先取り感覚も素晴らしい功績である。ぜひ式場Pと呼びたい!ゴッホに着目したのもその流れだろうか。
見ていて思ったのは昭和の時代に銀行や企業が、こぞって世界の名画カレンダーを当たり前に出していたのは式場隆三郎が行った日本ゴッホ(複製画)ツアーが源流じゃないだろうか。どうだろう?
展示を見れば見るほど、先見の明があり自分の仕事の位置から世界を眺める感覚は独創的かつクリエイティブとしか言いようがないのに、何故何故?学校教育でこういう偉人の生き方を教えないのであろうか。本当に勿体ない。子供の頃に知っていれば成長期の考え方の手助けになりそうなヒントが散らばり過ぎている。
当時の腦病院(精神病院)の入院患者作成のスクラップブックの中にコラージュされた頁の上に殴り書きで、
「眞の自由とは、自分が自らを律し得ることである」
とあった。痺れるぜ。精神が暴走すると本当の言葉しか出て来ないんだろうな。ソコに虚飾が身体に留まるには質量が軽すぎるのだ。
2階の展示の当時の著書は装丁が芹沢銈介であったりと、まるで文学の本のように美しい作りで病理学関係についての本とは思えない高い美意識を感じる。そんな豊かな時代があったのに、後に戦争になるんだから社会というは本当に油断ならない。芯から貧しくなってはいけない。
1階部分は民藝関係の交流が主の展示であるが、欧州のゴッホ展の要請で日本の工芸職人が制作した『ゴッホ工芸品』があり、むちゃくちゃ面白かった。ゴッホモチーフの浴衣や法被にワンピースなど、ゴッホ本人が見たら『聞いてないよ〜』と言いそうなミラクルゴッホグッズは物販にあっても売れそうな飛び抜けたセンス。復刻すれば良いのに。写真に撮れないのは残念で仕方ない。
日本の工芸は昔から住む日本人が伝えて磨き上げて来た技術であり文化。残された物を見て後世の人々が育って来たので、簡単に絶やしたり、本物を見る目を失ってはならないと云う事は良—く分かった。ありがとう式場隆三郎。知らなかったので是非是非、本を読んで見る事にするよ、手に入るものから。
なおタイトルの『腦室反射鏡』というのは著書の表題であり造語なのだそう。かっこいいな戦前のセンス。まるで椎名林檎が歌いだしそうな文字並びが、心の臓に刺さります。