『シン・ウルトラマン』ザックリ感想
パンフレットが早々に売り切れで手に入らなかったので、諸々曖昧な記憶であるが覚えている限りのザクッとした感想。
昔のウルトラマンを見ていても、全ての詳細を覚えている訳では無いので一作品としての感想としては、「こんなもんか」くらいで世間の感動の波にはついていけなかったのが正直な所。
とにかく主人公に全然魅力を感じなかったのだ。過去作のオマージュや小ネタは詳しい人には端々が嬉しい演出かもしれないが、それを関係なく観ている層には人間と違うスケールの外星人と禍威獣(怪獣)の戦いの物語としてのダイナミックさやワクワク感が無い。オタク的ミリタリー表現もシンゴジラを見た後では目新しさがない。
主人公の人となりの描写や引きが弱く、光の国という遠い星から来たウルトラマンが、子どもを助けて死に至るシンジに対してどう心動かされたのか分からないし(それなら周辺で助けに動いている自衛隊員も同じはず)彼をもっと知りたいとも思わなかった。ウルトラマンと生命を共有している事で、それまでのシンジと何が違っているのか全く分からない。尺的にも説明を省いて含みやニュアンスで見せる部分でもないと思った。
バディの浅見弘子の描写が古すぎるように見えるのは、元々にその狙いがあるのかもしれないが、怪獣災害の現場に向かうのにタイトスカートの女スーツでハイヒールに履き替えるとか、戦いに巻き込まれたらどう逃げるのかと思ったよ。巨人化した時の分かりやすい女性アイコンビジュアルにキャラ造形を当てはめただけだとしたら残念。平手打ちとか、信じているワ、などの古の女性キャラ口調を令和に観るのは大変にキツい。尻タタキで気合いを入れる以前の、まさにオジさんの考える”時が止まった若い女性像”に拍子抜けがする。あと、あの世界のネットはyoutubeしかないんかい。他にあるじゃろ。
ネットで騒がれていたセクハラという程にアウトと感じる場面は無いけど、匂いで追跡ならハンカチで身体を拭いて渡すんじゃないのフツーによ。くんくんは不要な演出で要らないよな。またキャストの年齢が高いので、やたらなアオリのアングルが多いのも顎の肉がダルダルに見えるのでどうにかして欲しかった。樋口監督が拘ったというiPhone撮影も印象に残らず特撮を普段から観てると、もっともっとカッコイイ画面はテレビ放映でもいくらでもあるので、特に映画ならでは!は無かったように思う。そんな事より冒頭の禍威獣の戦いをすっ飛ばした方が大問題。大画面でそれが観たかったじゃないかよ。
あと禍威獣が、どうして人間の造った変電所や核廃棄物処理施設を理解して向かうのか説明は欲しかった。禍威獣(怪獣)の知能程度に言及しないと対禍威獣戦は変わって来ると思うがどうなの?そもそも直に戦う訳でなければ、オンラインで良いのに現地まで行って禍特対は何を研究しているのか?
そして友好的な態度を取るとは云え、宇宙人と簡単に交渉につくなんて不用意すぎるアホな政治家達はその場で記憶を改ざんされたらどうすんだ。お偉いさんが禍威獣の名前をつけるのも”らしい”ネーミングなのが面白みがない。もっと台風に「カトリーヌ」とつけるような美的感覚の無さを出しても良かったのに。庵野世界のキャラクター達は複数人いても全体的にワントーンの濃淡だけでトンチキさが無い。アニメだと全てが虚構だから(登場人物も虚構のピース)気にならないが、実写だと同じようなテイストで人物が纏められて下品な振る舞いの人物が一切出て来ないのが、世界が閉じてる感が凄くあり窮屈で気になってしまう。
最後ウルトラマンが命をかけても人間を守る理由が「人間を好きになったから」というのは意味不明。『好きである』という理由が物語の中で免罪符に使われてしまう程にウルトラマンは人間と交流を持っていない。あの世界の人物も好きに誤摩化されるほど心が渇いてはいないだろう。レヴィ・ストロースの本を読むくらいなら眼の前の人間と話せよ。そこに熱を感じないのに命をかけるとかワケワカラン。大体なんで光の国の人類滅亡というルールに従わなきゃならんのか?ゼットンと戦うくらいならゾフィーを訴えた方が良い。知的生命体なら地球の訴えを聞けよ光の国!
山本耕史と西島秀俊は良かった、あの世界でちゃんと生きていた。彼らはいつも間違えない。欲を言えば西島秀俊がウルトラマンになって、メフィラスと飲み屋で地球と人間について語る所を観たかった。オレには最初から最後まで斉藤工はしっくりこなかった。シンジの正体バレも何かなあ。そこにドラマとしてのピークが来るかカタルシスがあって欲しかった。最近観たのが『ウルトラマンZ』だったので、あの世界で人間が知恵と努力でロボットを造り(力を求めるあまり悪用されてしまうのだが)、ウルトラマンだけに頼らず戦う姿勢が最終話まで貫徹していて、話もキャストも演出も熱量と爽やさを両立させていた。最近、見返してみてもやっぱり良かった。
オレはウルトラマンという巨人の存在に熱の芯を求めていたのでシンウルに空振り感は否めなかった。でもまあ好きずきだろうな。