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誰にも会わない旅。1日目。


誰にも会わない旅に出る。

それはいつもだが、より人気のない場所に行く。不要不急と言われればそれまでだが、普通の暮らしで冠婚葬祭以外の必要な旅など一体どこにあるのだろうか。

今回はなるべく都内を通らずに全線開通した常磐線を北上するのだ。まずは千葉に移動開始する。訪れる度に思うが千葉の中心街の雰囲気は何となく薄めた池袋テイストがあると思うがどうだろう。しかし千葉を濃くした所で池袋にはならないのだ。

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最初に千葉に来たのはリニューアルした千葉市美術館が目当て。以前は同ビル内に市役所があったが今回で美術館のみになっており1階部分に美術にフィーチャーした展示など諸々変わっていた。

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企画展「帰ってきた!どうぶつ大行進」は動物のみの絵の展示かと思いきや鍾馗絵などバラエティに飛んでいる。江戸の象フィーバー本の賑やかさなど、動物にまつわる人間の表情も面白い。ただ仙厓だけはいつもフリーダムが過ぎる。

充実していた美術館の帰り道は土砂降りで、靴どころか背負った旅の荷物もずぶ濡れである。ここでうっかり風邪をひいて熱でも出ようものなら予約した宿は門前払いになるだろう。この先の行動は重々気をつけたい。こまめに体温を計っておくなんて令和2年夏の常識。用心して遠出前1週間は家からもほぼ出ていない。


千葉の街中を通り抜けるか懸垂式モノレールは、昔見た『ボクらの未来の都市』的なレトロフューチャー感を街に与える。乗車してから足下を覘くとヒヤッと背筋をぬける冷たさが走り、見上げる空は黒雲で翳り雨が激しくなってくる。

千葉駅構内では関東では珍しい冷やしあめが売っていたので懐かしさのあまり即購入。足早にして次の目的地である佐原を目指す。

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成田線の下りに乗車する。すぐに車窓は市街地から田んぼの緑一色に染まる。車内は時期的なものかもしれないが成田空港に向かう客が少なく思える。と云っても普段は知らないけれど。客車の先頭には『荷物用』と緑の幕が垂れ下がっていて、都心の電車との役割の違いを不思議に眺める。列車は徐々に豪雨地帯を抜けていく。

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成田駅の乗り換えで佐原駅には1時間程で着いた。雨は激しく降ってはいるが、何とか雨で電車は停まる事はなさそう。わずかな安心を胸に案内板を見て目当ての「伊能忠敬記念館」に向かう。

この街には20年程前に一度来た事があるが、その頃の記憶はあやふやで最早ふやけかかっている。佐原観光のメインで風情ある運河沿いは、江戸の情緒を残す建物が令和になってもまだまだ残る。文化財級の建物がホテルになっていたり余裕があれば泊ってじっくり過ごしたい。

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記念館につくとコロナ対策で消毒のため一時入場を余儀なくされて15分待ち。客影は全然ないので臨機応変に対応して頂きたい所であるが、ルールなので仕方ない。先に記念館正面の対岸にある伊能忠敬生家に向かう。生家は結構立派な造りで江戸の建物でも腕の良い大工仕事だと木造も長持ちするかと感心する。

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待ち時間かわずかになり再び記念館へ。既に家族連れが一組待っていたが土砂降りで我慢がきかないお父さんが怒ってしまい早々に撤退していった。こちらも電車の時間が割とギリなので内心ヒヤヒヤしている。駅からも離れているのでタクシーなども考慮に入れておこう。やがて中に入れて貰うが体温測定、住所記載と入場券を買う前に諸々手間がかかり、それなら待ち時間にスマートに進行して頂きたかった。

人がいないので、じっくりかつ足早に見学。自分は地図会社にいたので是非来ておきたい場所だったが、ここを目当てとする客層が今ひとつ想像できない。Google mapが好きというのは多いのだが、それとは違い世の中の地図好きがどれほどいるのかは不明である。館内に展示されている国宝の地図など見応えは十分であった。

江戸後期に50歳を過ぎてから全国地図人生を送った忠敬の健脚ぶりには驚く。当たり前だが測量以前に天文学の知識も必要、自由に行動出来ない時代にバックアップしてくれる領主の存在も必要である。出来上がった地図の精度も凄いが、夢を成し遂げるまでの事前準備込みの人生の縮図を記念館で纏めて見るのは勉強になる。第二の人生を考える人には何か参考になるかもしれない。館内は撮影不可で残念だが『宇宙図』という手描きの図は面白かった。多分、銀河だとは思うがなんなんでしょう。江戸時代に銀河なんてどうやって知ったのだろう。

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次に来る時は泊まりで月夜を歩いて過ごしたい。そんな佐原を後にして鹿島線に乗車する。


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大河を越えるともう茨城県。2週間前に群馬の前橋で見たばかりの利根川を跨ぐ。本当に坂東太郎は長くて大きい。県南部は首都圏と云われても水辺の景色が多く海も近いために市街地と比べると車窓により旅の気配が漂う。近くの関東パワースポット鹿島神宮にも寄りたいが、もう夕方になってしまったので次回の持ち越し案件として先に進む。通りすがりに見える鹿島の森はただならぬ雰囲気があるので来る時は精進潔斎して参りたい。

ここからはガルパン列車、鹿島臨海鉄道大洗線に乗車する。のんびりした田舎の風景とアニメ列車のコラボレーション。非常に目立つ車両だが地元民には日常風景。海が近くなると小雨になり周囲には霧が立ちこめて来る。単線の先は霧の中に消えていて、なんとはなくゲゲゲ鬼太郎の幽霊列車を思い起こさせる。

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終点の水戸駅は東京の駅と何ら変わらぬ都会ぶりで急に旅気分から現実に引き戻される。次第に周囲から飲食店の香りがしてきてお腹がなってくる。駅には東京と変わらない食べ物は沢山あるが、どうにかして地元の名物、噂のスタミナラーメンを食べておきたい。しかも調べたら夏期は冷やしもあるらしい。是非ソレで。

スマホ調べで歩きでいける距離として大甕駅(おおみか駅)にある店舗が良いらしい。あとは車の距離なのでちょっと厳しい。店舗で厨房は暑そうだが今時期はマスク必須なので店も大変である。

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初めてのスタミナ冷やしは美味かった。少しピリ辛で味が何もかも丁度良い。カボチャや野菜も沢山入っているのがラーメンを食べる後ろめたさを相殺する。満足気分の駅までの帰り道には関東なのにセイコーマート(北海道コンビニ)があって久しぶりの夕張メロンソフトを買って食べる。

大甕の街は開けていながらも主張するような個性も無く、どこかドラマに出てきそうな架空の街の様相。太平洋にも面しているが、湘南のような明るい感じはなく荒々しさと裏寂しい風情があるのが外海たる茨城らしさなのだろうか。


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夏の日は長いが曇ってばかりで夕暮れは分からなかった。



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