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行きつけは、「別子電波」 -ラジオを自作した少年たち

 長く昭和を生きた方々にとっては当たり前の事実かもしれませんが、戦後しばらくは戦前から引き続き、ラジオを聞くためには今のNHKのテレビ放送と同じく「受信料」を納める必要がありました。
 戦後直後は月額2円50銭(昭和21年。同年の鉛筆の価格がだいたい50銭)、その後物価の上昇とともに値上がりし最高額は月額85円(昭和35年前後)、その後昭和37(1962)年にはテレビ普及を背景に受信料が「ラジオ・テレビ両方」と「ラジオのみ」の2種に分かれ、さらに昭和42(1967)年にはラジオ受信料の廃止が決定。廃止直前の「ラジオ受信料」は月額50円。だいたいラーメン一杯と同じくらいでした。
 この「ラジオ受信料」について、興味深いデータがあります。
 それは、「戦後しばらくは、ラジオの生産台数が、ラジオ新規聴取加入に対して、極端に少ない」というものです。店売りのラジオはあんまり売れてないはずなのに、ラジオの聴取人数がどんどん増えていたのです。
 今回のエピソードのテーマである「ラジオの自作が流行っていた」というのが、その種明かしです。

 今みたいに、インターネットとかはないからね。『初歩のラジオ』ですよ。そういう本があったの。それをね、部品はこれを使って、実体図いうて、分かりやすく絵で描いてくれててね。だから『初歩のラジオ』が私たちの先生。そこをクリアしたら、次は『ラジオ技術』になってね。その後が、『無線と実験』という。三段階あるんよね。けっこうそれを見よったね。立体で書いてあって、写真よりリアルだから、よっぽど泥臭いことしない限り、完成するんよね。作れるし、音も出るんですよ。
(そういう材料はどこで買うんですか。)
 別子電波ですよ。昔は、あとは西条駅前の星加ラジオ。あのおっさん、優しかったねえ。あのおじちゃん、よう教えてくれたねえ。

 これは1960年代に少年時代を過ごした方々の回顧ですが、品目ごとに税率が定められていた物品税(いまでいう消費税)の、オーディオ関連機器の税率が高かった時期もあり、学生たちのお小遣いではなかなか手の届かなかった‘店売り’のラジオ。そこで「音楽を聞きたい!ラジオを聞きたい!」という少年たちの力強い味方となったのが、昭和23(1948)年創刊の雑誌『初歩のラジオ』を筆頭に当時多数出版されていたラジオ関連雑誌と、新居浜なら今も昭和通りに店舗を構える「別子電波(現・別子テクノ)」、西条なら今の西条駅前「ホテル玉の屋」の北隣辺りに店舗を構えていた「星加ラジオ店」などの、電気部品店。ラジオだけでなく、同じく高い「物品税」率のためなかなか既製品には手が出なかった蓄音機など、オーディオ機器全般の自作が流行っていた頃の救世主でした。

 たしか計算すると、自分でパーツを買うと、お店で買うのと1/10くらいで出来るんよね。まあ、高かったんよね。他のものと比べたらオーディオ機器が。で、自分で作ってもけっこういい音がするんよね。トランジスタなんかなかったんだけど。むかしは真空管しかなかったからね。真空管アンプ自分で作って。はんだ付けして作ったりね。それでスピーカーつけて。スピーカーユニットは、別子電波いうところで買ってね。いまあそこ、別子電波いわんのか。別子テクノか。そういうのも自転車で買いに行ってたね。
 そののちにテレビが出て、テレビが出たらラジオなんか聞く人がおらんくなったから、いまでいうスクラップ屋にね、いっぱい、ラジオがころがってたんよ。そこでコンデンサをニッパーで切ってもらったりね、とりあえず100円とかで売ってもらって。

 お小遣いをなんとかやりくりして、仲間たちとも情報交換をして、自作のラジオを完成させる少年たち。ここで紹介したような、コンデンサや真空管などを巧みに使いこなすのは熟練者の部類でしょうが、自作初心者でも簡単に作れたのが「鉱石ラジオ」。アンテナから発信される電波を電源にして駆動する、電源いらずの究極のエコ(?)ラジオでした。

 鉱石ラジオだったら、ゲルマニウムが80円くらいでできるんで。おやじの自転車の発電機でエナメルを巻いたねえ。電源なしですからね。電池がいらんのやから。で、イヤホンで聞けるんだから。電波みたいに目に見えないものが、なんで音になるのかが不思議だったねえ。
 で、中学生の頃、どこがよく電波を拾うかいうて、自転車にラジオのアンテナつけていろいろ走ってたら、「おお、ここはよく拾う」と思うて気づいたら、新居浜のNHKのアンテナの下だったんよ。「そりゃそうやわ」いうて。クリスタルイヤホンいうて感度がすごい良いんやけど、「こりゃすごいわ」いうて見たら「これ、放送局だったわ」いうて。笑い話だけど。

 初めて自作できたラジオが捉えた電波に、その第一声に、当時の少年たちがどれだけ歓喜したか。手元のスマートフォンで音楽や動画がどこにいても‘受信’できる時代に生きる私たちには、計り知れない感動体験です。

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