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チェリまほを見るたびに共感性羞恥に襲われるレズビアンが考えるBLとゲイの境界線

30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい、通称チェリまほ。あんまりセクマイ界隈では話題になっていないが、個人的に国産同性愛ドラマとしてはかなり優秀な作品だと思う。

原作も一通り読んでる(単行本は1巻のみ)人間ではあるが、ドラマはずば抜けて倫理的で優秀に思える。

今回はその倫理観の優秀さについての話です。

令和BLの倫理観

私が一番最初に思ったのは安達が黒沢が自分を好きだと知っても揺るがない信頼である。

具体的に言うと、2話で安達が黒沢の家に泊まることになった時に襲われることを一度は危惧しながらも「いやそんなはずはない」と自分で打ち消してる辺り。好きでもない人を襲うほどゲイはセックスに飢えていないということを安達が理解(わか)ってるところである。

個人的にここをわかってるアラサーシスヘテ男は少ないと思う。

思春期をLGBTムーブメントの中で過ごした20代中盤の私ですら現実の同性愛嫌悪的発言を見聞きしており、それよりも少し上の30代となればちょっと前に大炎上した保毛尾田保毛男で有名なとんねるずのみなさんのおかげです。に触れていてもおかしくない。

その世代がまだこの倫理観を持ててる、というのはめちゃくちゃ優秀だと思う。

シチュエーションが一番近い「弟の夫」を見てみると、1話でカナダからやってきたマイクに対して主人公は表向きは歓迎しつつも内心で強い嫌悪感を示している。

セクシュアルマイノリティとの交流経験の少ないシスジェンダーヘテロ男性の反応としてはこちらのほうが一般的なのではないだろうか。

黒沢が自分を強く自制することで成り立っていることを安達が知っていることを抜きにしても、黒沢の家に泊まったことで自分が性暴力被害に遭わないと信じられることはかなり倫理的なのが分かる。

そして、私が見た限り二人の勤め先は分かりやすくゲイフレンドリー企業ではないように見えた。

ゲイフレンドリー企業なら社員に性的少数者についての研修を受けさせてるという証拠のようにレインボーグッツを職場にちりばめるだろうし、3話の王様ゲームのくだりは一歩間違えれば性暴力で倫理的ではないという話が出て来てその後の展開が難しくなる。

つまりセクシュアルマイノリティーについての知識がさほどない状態で、自分に恋愛感情を抱く男の家に泊まっても性的同意なく襲わないというのが暗黙の了解として物語世界に存在してるという風に考えるのが自然に思える。

……倫理的すぎませんかこいつら。

異性と二人きりで食事したら性的合意であると勘違いしてるトンチキな奴らも存在する現実の令和日本より倫理的なんですが?

そんなスーパー倫理的イケメンたちに、共感性羞恥をぶっ刺される私の気持ちにもなってほしい。灰になって燃え尽きるのみである。

共感性羞恥ぶっ刺されポイントについて

このウルトラ倫理的な展開に加えて、私の個人的な共感性羞恥までぶっ刺してくる。

具体的に言うと黒沢が安達に内心で向ける好きすき発言が、中学時代の自分と重なりすぎて死にたくなるのである。

具体的にひとつあげるなら「同僚として安達のそばにいよう」と決意する黒沢が、中学時代好きな女の子と付き合えないと分かったうえで「まあ友達で良いか」と諦めた自分とダブって死ぬ。

たぶんここで共感性羞恥ぶっ刺されるセクマイ当事者は沢山いると思う。

学生時代によく考えてたことを物語を通してストレートにぶつけられてるこっちの身にもなってほしい。

漫画だと絵と文字なので生身の感情と切り離せたのが、ドラマだと生身の人間が全身全霊でその人の感情をまとったままストレートに音として発せられるので余計に過去のリアルな感情を掘り起こされる気がする。

もう一つ例を挙げるなら、王様ゲームのあとに店を抜け出した二人が店の屋上で交わす会話である。

ここで黒沢は「同性とのキスなんて気持ち悪いよな」と笑いながら自虐をこぼすシーンだ。たぶんセクマイ当事者ならヘテロの友達に合わせて一度くらいやったことがあると思う。

しかも東京タワーの見える夜景というトレンディドラマっぽいシチュエーションでこれをぶち込んできてる(原作では普通のベランダのようなところだった記憶)のが絶妙で、原作の少女漫画感も強めつつ80年代の男らしさ・女らしさに縛られていた時代の文脈も読み取れそうな感じがする(※深読みのし過ぎです)

そして私は共感性羞恥で毎度毎度悲鳴を上げながらTwitterに感想を書き殴るのである。

そうして思ったのは、これだ。





「ここまでくるともうBLとゲイの境目が分かんねえな?」

ドラマ版チェリまほは原作が持つ超王道少女漫画的な展開を大枠として残しながら、現代的なセクシュアルマイノリティの倫理観とセクマイが通りがちなあるあるを同時にぶち込み、なおかつ上質な深夜ドラマとして成立してる。

テレ東スタッフの脚本力と役者さんの力量だと思う。

つまり、テレ東はすごい。マジですごい。

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