眼鏡屋盗人【二代目桂小南の噺】
あらすじ
ベテランの泥棒(親分)が、ちょっぴりおバカな子分の泥棒たちを引き連れ、盗みに出ます。入り込んだは、古道具屋で、不思議な眼鏡で節穴を覗くと!?ちょっぴりおバカな泥棒達の噺、是非お聞きください!
コメント
実は、わたしが、二代目小南を好きになったきっかけが、この『眼鏡屋盗人』です。
「とざい、とーざーい! ちゃーん! 本日は泥棒の開業式で〜……」と、新米泥棒がボケる所から、上手く、噺の世界に引き込んでいます。
見所は、何処に入ろうか、漫才のような会話をしている所と、後半の親分のノリツッコミです。ボケとツッコミを巧みに演じ分けるのが上手いと前述しましたが、この噺は、特にその良さが出ています!
眼鏡屋盗人
マクラ
えー、ただいまはお仲入りでございまして、えー、大変にお暑い目をかけさせて申し訳がございません。もう、これからは、暑くならないはずでございます。
えー、暑くなりましたら、あの~、ここの電気量が払ってない証拠でございますので。どうぞ、そのおつもりで。
えー、ごくばかばかしいお噺ばっかりでございますが。
このー、おー、よく我々、泥棒のお噺を申し上げますが、まあ、商売となりますと、何の商売でもむずかしいもんでございますが。一番割に合わないのが、「泥棒」だそうでございますがな。その時は儲かったと思って、大変喜んでおりますが、追い回されましてな、とっつかまりまして、刑務所に放り込まれて、あとで日割りにすると、あんな合わない商売はないそうでございます。こりゃもう、お客様にはお勧めが出来ない商売でございましてな。
でー、講談ですとか浪曲になりますと、ずいぶんと立派なのが出てきましてな、まるで神様みたいなのがよく出てきますけれども。
落語の方へ出てくる泥棒というのは、たかが知れております。
石川五右衛門の子孫で、石川二右衛門半(5の1/2という意味で)っちなこと言いましてな。何か、ゴリゴリしたような感じで。えー、鼠小僧の弟子で、鼠ひざっ小僧という。どうもはっきりといたしませんが。
あー、よくまあ、泥棒でもいろいろございます。
泥棒ですとか、盗人ですとか、盗賊。まあ、色々ございますなあ。
でー、あの、スリのことを、関西行きますと、「チボ」てなことを申しますが。
あのー、盗人というのは、どういう訳かと言いますと、ぬーっと入って、すーっと取って、とーっと逃げるんで、「ぬすっとー」と言うんだそうでございますな。
でー、盗賊というのはよそのうちへ入ろうとして、こう、戸の所へ来ると、ゾクゾクっとするんで、「とうぞく」という。あんまりあてになりませんけどもなあ。まあ、いろんなことを申し上げておりますけれども……。
親分の盗人(以下B)「やいやい、こら、新米! こっちへ出てこい!」
新米の盗人(以下R)「へいへい、へいへいへい、どうも。へい、へい」
B「なんじゃ、こいつは。噺家の見習いみたいな奴が出てきやがる。はあ~、派手な格好しとるなあ。赤だの青だの黄色だの。まるで交差点みたいな着物着とる。どっから引っ張り出してきたんじゃい」
R「へい。あのー、裏のチンドン屋さんでちょっと借りてきたん」
B「チンドン屋で? なんでそんなもんを借りてきたん?」
R「あのー、宣伝して歩こうかと思って……」
B「何宣伝するんじゃい」
R「今日、開業式で……」
B「開業式? 何が開業式や」
R「へへ、泥棒の開業式。とざい、とーざーい! ちゃーん! 本日は、泥棒の開業式でございます。何かご注文の品物があれば、たちまち盗んで御覧に入れます」
B「あほあほあほ。こんな、お前、夜中に大きな声でそんなことを怒鳴っとったら、すぐに、お巡りさんに捕まってしまう。こっち来い! 今日な、お前を初めて仕事に連れてきたというのは、訳があるんじゃ! おい、新米! お前、この町内のことは明るいんじゃろ?」
R「へっ?」
B「町内のことは明るいんじゃろ?」
R「ええ~、明るいのなんのって、あんた、もう、昼間でしたら、ずうーっと向こ。石の鳥居があります。で、その向こうが本殿。お宮さんになる。こっちがこの~、松の木が……」
B「あほお。その、明るいの聞いてんのと違う。この町内でなあ、お札がうなっとるのはどこじゃっちゅーねん」
R「へっ?」
B「お札がうなってるうち!」
R「あすこの焼き芋屋」
B「あそこは何か、お札がうなってるのか?」
R「そりゃもう、サツマイモが山んごと」
B「あほお! 違うわい! わしが聞くのはなあ、懐のあったかいうちじゃ!」
R「へっ?」
B「懐のあったかいうち!」
R「やっぱり焼き芋屋です」
B「あんな小ぢんまりしたうちで、懐があったかいのか?」
R「あったかいのなんのって、あんた、朝からボンボンボンボン火ぃ焚いて、ポッカポカ!」
B「あほやなあ、こいつは……。そのあったかいのと違う。わしが言うのはなあ、金目のあるうちはどこじゃと聞くんや」
R「へえ?」
B「町内で金目のあるうち」
R「あー、それやったら、そこ曲がったとこの田中屋です」
B「ほお~! 金目のものがあるか」
R「あるどころの騒ぎやない。あんたもう、店からもう、表から台所までびっしり詰まってます」
B「有り難いなあ~。そうかあ。どれくらい持っとる?」
R「えー、やかんに、鉄瓶に、バケツに……。金槌に釘ですなあ」
B「……そこ、商売は何じゃい?」
R「金物屋です」
B「あほお。金物屋入ってどーするんじゃい! 違うがなあ。わしが言うのはなあ、金持ち、金持ち。この町内で一番の金持ち!」
R「あっ、それやったら、こっち曲がったとこの大黒屋」
B「金があんのか?」
R「あるのなんのって、ここらのもう、借家殆ど、大黒屋が持ってます」
B「そうかあ。そいつは有り難いなあ~。家族は?」
R「えー、番頭さんから小僧さんまで入れて、18、9人いますなあ」
B「そんなとこ入って、とっつかまえられたら、ふんぢめられてしまう(舌打ち)何ち言うたらわかるんじゃろうな。あのなあ、人数(にんず)が少なくて、金を持ってるうちじゃ!」
R「あっ、それやったら、あすこの横のタニダさん」
B「ん~、金持ってるか?」
R「ええ~、持ってます、持ってます」
B「何人暮らしや?」
R「夫婦に子供で3人暮らし」
B「そうか……」
R「この頃、評判。えっらい金貯めたって」
B「有り難いなあ。商売は?」
R「プロレスの選手です」
B「何、このやろ。そんなとこへ入って、空手チョップでも食ろったら、こっちは目えまわしてしまう。違うがな。わしが言うのはな、よっわいとこないか、よわいとこ!」
R「ああ、弱いとこですか? なら、この路地の奥です」
B「早よそれを言わんか。弱いか?」
R「弱いのなんのって~、おじいとおばあの二人暮らし。おじいは89、おばあは87。3年前からおじい寝たっきりです。おばあ、こんなんなってます(間抜け丸出し)ちょっと押したらスッテーンって、ひっくり返ります」
B「ほお~、弱いな」
R「あんな弱いのないですなあ」
B「そうか。銭はあるか?」
R「さあ……、町内で面倒(めんど)みてます」
B「なんじゃこりゃ。そんなとこに入ってどうするんかいな。あのな! 日本全国、何処に行っても通用する札束! お札がうなってるとこ!」
R「そんならそうと、早いとこ、ええとこ知ってます」
B「それは聞くねやがな。何処じゃ?」
R「日本銀行の地下室」
B「なんじゃこのやろ。これから日本銀行まで行けるかい! え!」
新米より少し先輩の子分が出てくる。
子分(以下M)「親分!」
B「立つか?」
M「あきまへんで、こんな新米の言うこと聞いてたら……」
B「ああ、こいつと喋ってたら、何か、漫才でもやってるみたいじゃ」
M「親分、昼間のうちにガンをつけといた、というのは何処です?」
B「俺がガンつけたと言うのはなあ〜、この斜向かいの古道具屋じゃ!」
M「ははーん、なるほど。かなりガッチリした構えですなあ」
B「うーん、かなり貯め込んでるとわしゃ、睨んでるんじゃ……」
M「親分、今夜あすこでひと仕事、やりますか〜」
B「そうじゃなあ。じゃあ、しょうがない。あの古道具屋でやるか! おい、新米!」
R「へっ!? へへへへ、へぃ!」
B「お前はその、ペコペコしすぎるんじゃ! あの古道具屋行って、ガン張ってこい!」
R「へっ!?」
B「ガンを張って来いっち」
R「……紙貼るんですか!?」
B「ガンを張って来いっちゅ……」
R「紙貼る……」
B「(急に声色が可愛くなり)何にも知らんなあ。雨戸(おうど)の所に穴が空いとるじゃろ、節穴が。あれから中を覗いて、様子を見る。わしら泥棒仲間の頃は、符丁じゃ! 中の様子を探るのを、ガンを張ると言うんじゃ! ガン張って来い!」
R「ああ、そう言うか? 初めて聞いた! いきなり、そんならそろそろ〜、(歌舞伎口調で)プッ! ガンを張ると、すると、しょーかー〜」
B「何を気取っとんねん。早よ行って来い!」
M「親分、あーきまへんで〜! あんな新米で」
B「そうか……」
M「へええい!」
B「よし。お前行って、ガン張って来い!」
M「ほら、新米、どけ!」
R「(ぼそぼそ……)」
B「あほお! あ? 泥棒でガンを張ると言うのは、真打(※プロの落語家)の仕事じゃい! お前らみたいな見習い(※入りたて。落語家の中では最低ランク)に出来るか! 見とれ、こっち来い! 俺がガンの張り方、教えてやるから! ええか? ガンを張るのに、一番肝心なのは、目えを使うんじゃ! 目を! ええな! 鼻使っても中見えんぞ。目で見るんじゃ! 上下左右前後に怪しい奴がおらんかとゆうことをよお〜く、見極めるんじゃ! なっ!」
R「兄貴〜!」
M「ん?」
R「怪しいのが一人います」
M「何処に?」
R「電信柱の陰」
B「あほお! 親分じゃぃ!」
M「あいつ、一番怪しい」
B「何言うとんねんあほ! てょい! ええか? こういう具合にガンを張るんじゃ!」
表でごちゃごちゃ喋っておりますとな、ちょうど、お店で一人の小僧さん、まだ起きておりまして、手習いをやっております。
小僧(以下K)「ごちゃごちゃ喋っとる。何言うとるのやろーなー。ん? ガン張れ? 親分? ……はあ? 泥棒が入るねや。あー、こわ……」
K「こえーなー、あすこから覗く。旦那もおかみさんも寝てしもた。あー、こわー、あー、あすこから覗く、金だらい叩いて火事や〜って言ったら、近所の奴、ビックリするしなあ……。あの節穴から、火箸持っていって、プスーッと突いたろうかな。あとで仕返しされたら怖いしなあ。あー、こわ」
ふっと見ますと古道具屋さん。
まあ、そんなものはございませんが、将門(まさかど)眼鏡、と申しまして、こう、覗いてみますとな、一つの品物が、七つ八つに見えるという、これを節穴へペタッと当てがいますと、上手い具合に3人乗りまして。
B「奥で一生懸命墨すっとる。いいか! 見とけ! ガンを張ると言うのはなあ、こんな具合にやるんじゃ。よく、目を洗ってな。ふー、はー」
M「おお! おーおーおーおー!? 親分!」
B「何じゃぃ!?」
M「ここ、商売何です?」
B「古道具屋じゃ!」
M「学校でっせ!?」
B「がっこー!?」
M「へい」
B「あほお!」
M「いや、学校です。子供が7、8人で手習いやってますう〜」
B「ほお〜ほお〜、みんな同じような顔しとる。……いやあ〜、双子とか三つ子とかいう話は聞いたが、七、八つ子というのは初めて聞いたなあ……。はてな。みんな揃いの着物着とるなあ」
M「くっくっくっくっく……(にやにやと笑う)みんな鼻の頭に同じとこ、墨付けとる。かーっかっか!ばっかな奴だなあ……あっはっはっは〜! 親分、学校です」
B「あほう!」
M「いえ、確かに」
B「一人が墨すり出したら、一緒になってすっとるなあ……。よく手が揃うなあ〜、これまた〜、あれえー!? 横に1匹ずつ、ちゃんと座っとる。はてな? あれあれ? 1匹の猫があくびしたら、一緒になってあくびしとる。よく揃うなあ……」
M「親分、学校です!」
B「あほう! 新米、お前ガン張れ!」
R「兄貴どけ〜、こんなとこに学校なんかありますかなあ!? ♪☆¥€%#……がっこ」
あっ、新米やなあ。よーし、今度はレンズと取り替えましてな。
その前に、猫を連れて行ってにゃーんって。
そんなことは知らない、新米の奴。
まあ、こんなん……
R「ああ〜!!!(泣きそうな声で悲鳴)」
B「なんちゅー声出すんじゃい!」
R「親分、ここ、動物園です……(ビビりながら)」
B「……どーぶつえん〜!?」
R「大きな、トラがいます! トラが……」
B「あほお! こんな街中にトラが……」
R「いえ、大きな口開いて、ひげ生やかしてます……」
B「どけ、こいつら! どいつもこいつも……、はあ!? だから俺が、言うとるじゃろ! 昼間寝る時にはちゃーんと寝とけ言うたじゃろ。お前ら、パチンコみたいなことしとるから、肝心の時間なると、こういうことになるんじゃ! 親分が自らガンを張るくらいなら、子分なんか連れてくるか! どけ!」
あっ、親分じゃな。よーし。
えーっと、今度は、っとあった望遠鏡。
長いやつ、きゅーっと伸ばしましてな、あれ、覗いてみますと、遠いところが近く見えますが、あれ、あべこべにいたしますと、近いところがとおーく見えるもんでございますがなあ。
反対のまんま、節穴へペタッと当てがいますと、どっこいしょと担いでおります。そんなことは知らない、親分。
B「……っ、どけ! ったく、ばかやろーが、こいつら……(舌打ち)。ここにガンを張ると言うのはなあ、こういう風に張るんじゃ! 見とれよ、しょん……☆♪*……バカ……(ぶつぶつ言う)」
B「おお!? いょ!? おおおお〜、おおおお〜!」
M「親分、学校ですなあ……」
B「あほう、こんな学校があるかあ!」
R「あの〜、動物園!」
B「☆♪*¥%〜シャー……こんな動物園があるかあ!?」
R「あの……」
B「うるしゃー……、はーてーなー?(歌舞伎風に)よおおお〜!」
B「(子分の名前?)」
M「へい!」
B「今、何時じゃ?」
M「へい、2時頃やと思います」
B「2時? 今夜、このうちでは、仕事にならん」
M「これまた親分、どうしてですか?」
B「台所に行くまでに夜が明けてしまう」
※落ちとしては、「間抜け落ち」になります(*´∇`*)
ここまで読んでくださりありがとうございましたm(_ _)m
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