「急迫状況」 『フェイクシティ ある男のルール』:創作のためのボキャブラ講義51
本日のテーマ
題材
「殺してくれて感謝している。それが俺の本音だ。ってことでズバリ聞きたい。お前ら誰だ? なぜ他人の名を名乗っている?」
「誰だろうなあ、刑事さん」
「究極の悪夢だ。俺達が動けば、そこに急迫状況が生まれる」
「……! おいラドロー! こいつら知ってる!」
(本編80分ごろ)
意味
急迫状況 exigent circumstances
緊急事態。法執行機関に特有の言い回しと思われる。
解説
作品解説
ロス市警の保安特捜班に勤める切り込み隊長、危険を顧みないトム・ラドロー刑事。しかし正当防衛を偽装するなど違法なやり方が多く、元相棒のワシントンから目をつけられていた。ワシントンは特捜班から外された恨み、そして彼が告発した内務調査のビッグス警部は、トムの上司ワンダーに出世を邪魔された恨みから彼らの周囲を嗅ぎ回っているらしいが……。
チクられた恨みを晴らすべくワシントンを襲撃しようとしたトムだったが、訪れたコンビニを武装強盗が襲撃し、ワシントンが死亡する。しかし不自然なことに、彼らはワシントンを殺害するのが目的のように見えた。だが監視カメラの映像を見る限り、恨みを抱いたトムがチンピラを雇ってワシントンを殺させたようにしか見えない。捜査をあえて迷宮入りさせ、警官殺しの犯人を野放しにする代わりにトムの立場を守ろうとワンダーたちは動くがトム自身が納得せず、独自に捜査する。
脚本は『L.A.コンフィデンシャル』の原作を書いたジェイムズ・エルロイ氏。平然と違法捜査をしたうえで「超法規的な仕事は誰がやる?」と息巻く主人公たちの姿は見ていると倫理観が混乱するが、これがエルロイの作風ということか。
ともあれ、題材の場面は犯人二人組の所在をついに掴んだシーン。ワシントン殺しの件を担当する若手刑事ディスタンスとともに乗り込み、犯人の正体を探る。「急迫状況」という不自然な言い回しに、ディスタンスがなにかに気づいた瞬間、相手は発砲し銃撃戦となってしまうのだった。
警察特有の
ディスタンスもそうだが、後々トムもこの「急迫状況」という言い回しに引っかかっている。書き起こしたシーンは日本語吹替の表現だが、確かに日本語としてもやや聞き慣れない表現であり、犯人の言い回しに引っかかるよう描写されているのが分かる。
英語字幕では「exigent circumstances」と表現され、直訳すれば「緊急事態」である。circumstancesはTOEICでもそれなりに出てくる語彙らしく、この単語の組み合わせ自体は英語を相応に学んでいる人なら理解できないことはないのだろう。
調べてみると以下の記事がヒットした。
ここで「exigent circumstances」が説明されている。『BOSCH』はロス市警の刑事を主人公とする作品らしく、この表現がいつ使われたものかは確認できていないが、刑事が使ったのなら警察など法執行機関に多く見られる言い回しである可能性が高い。
いずれにせよ独特の言い回しであり、作中ではそれを端的に鑑賞者へ伝えるべく、「理解できるが引っかかる」表現で翻訳しているようだ。
情報
『フェイクシティ ある男のルール』(2009年公開)