『ドカ食いダイスキ! もちづきさん』にみる趣味の狂気:創作のための戦訓講義82
事例概要
発端
こんなヤバい漫画を連載するな!(しかし最近の自炊女子漫画の中では一番好きだわ。悔しいだろうが仕方ないんだ)/ドカ食いダイスキ! もちづきさん https://t.co/R5wZSMHEjR
— 円居挽 (@vanmadoy) May 8, 2024
"至り"に向かうことの快楽≒暴力のおかしみと、それを嗤う読者私自身の暴力性への内省を同時に描くのはこづかい万歳(こ万)と同じ箱/構造の漫画だと思えたのでこづかいTLから発見さるのも納得である>ドカ食いダイスキ!もちづきさん、ドカ飯https://t.co/m8SEMZuQe0
— 環 (@p_lost) May 9, 2024
※新しく発表された漫画がヤバいという話。まずは読んでほしい。
死へ突き進む
話題のもちづきさん、暴飲暴食の先を「罪悪感」という言葉に落とさず病や死の予感と恐怖をはっきり描いたところに驚きがありましたね…
— 笛吹太郎 (@fuehuki) May 9, 2024
食べるって生き延びるためにいちばん必要な行為なのにそれによって死に近づくっていちばんすごい死に方なのかもしれない生物として 生と死の矛盾
— マシーナリーとも子 (@barzam154__) May 8, 2024
「やめてくれよ確実に死ぬよ何も知らねえだろ若いから平気に感じられるだけでこれ前借りだから50で死ぬパターンだから中年になってから死ぬほど後悔するやつだから」という気持ちと「こうして『健康でいなければならない』『長生きしなければならない』さらには『国の保険料負担を増やすな』という呪縛… https://t.co/kVbKUVLOn5
— 似鳥鶏 『刑事王子』発売中! (@nitadorikei) May 9, 2024
※悪習を悪習として描き、その結果がすでにほの見えているという狂気。
もちづきさん 「漫画だからドカ食いしても死なないんですよ」じゃなくて 「もちづきさんだって当然この食事には死の影を見ているが 様々な言い訳(黒ウーロン茶)を用意して見なかったことにしている」で1話を締めくくっているの どういう緊張感の出し方なの
— ラン☆ガタロウ@YouTubeでゲーム配信中 (@rangatarou) May 9, 2024
当時の見解1
食材の採取とか関係なく、おそらく主人公の平常運転で「死」が垣間見えるグルメ漫画、初めてかもしれん。https://t.co/RdIDCBqslm
— 紅藍@カクヨムで新作『偽王子事件』連載中 (@akaai5555) May 9, 2024
おいおい何やってんだよという感じだったが、「早炊きの米は芯が残る」で真顔になった。俺は早炊きの米に芯なんて感じたことないから。もちづきさんの方がよっぽど食に向き合ってるよ。
— 紅藍@カクヨムで新作『偽王子事件』連載中 (@akaai5555) May 9, 2024
ドカ食い気絶を「至る」と表現する行為、いい加減サウナにおける「整う」もまあまあ体に悪いと広まり始めているからこそできるやや肯定よりのフラットな表現だな……。
— 紅藍@カクヨムで新作『偽王子事件』連載中 (@akaai5555) May 9, 2024
当時の見解2
もちづきさん、お弁当は毎日作っているし早炊きすると米に芯が残るのを認識できているし、絵柄が崩壊するレベルの飢餓感で帰宅しても料理はちゃんと作るあたり食事への向き合い方は真摯だよね。まあ真摯に向き合った結果死に向かっているんですが……。
— 紅藍@カクヨムで新作『偽王子事件』連載中 (@akaai5555) May 9, 2024
向き合っているのは正確には己の食への欲望かもしれんが……。照り焼きのチョイス理由に「朝すぐ作れる」が入っているあたりちゃんと早起きして弁当作っているタイプっぽいし。
— 紅藍@カクヨムで新作『偽王子事件』連載中 (@akaai5555) May 9, 2024
死の淵に向かって全力疾走しているもちづきさんに恐怖を覚えつつ笑っている一方で、でも俺はこんなに食には向き合ってないんだよな、俺がもちづきさんを笑える立場なのか? と思ってしまう。
— 紅藍@カクヨムで新作『偽王子事件』連載中 (@akaai5555) May 9, 2024
お前がドカ食い気絶をしていないのは賢明だからではなく単にそういう気質だっただけ、というやつ。まさしく「悪いことをしなかった」のではなく「悪いことすらしなかった」みたいな話だ。
— 紅藍@カクヨムで新作『偽王子事件』連載中 (@akaai5555) May 9, 2024
※笑いつつも自分は笑える立場ではないのでは、という疑念が。
当時の見解3
飲酒漫画とか喫煙漫画もそうだけどおじさんの不摂生に美少女のガワを被せてコンテンツにするとき、現実よりさらにダメ側に寄せることで読者のおじさんに自分はまだマシと安心させつつそんなんじゃ死ぬよ的なアドバイス欲も満たすことができ、おじさんをターゲットにした漫画の最適解なのではないか
— NJRecalls (@NJRecalls) May 8, 2024
おじさんに美少女の皮を着せたコンテンツ、おっさんがおっさんを見るのが耐えられないからという一因があるので、じゃあ肝心の美少女の行為を最初から直視できないものにしてもいいじゃん、なのが発想の転換。 https://t.co/XGlO66zyhc
— 紅藍@カクヨムで新作『偽王子事件』連載中 (@akaai5555) May 9, 2024
男の悪習慣ってある種の「男らしさチキンレース」の側面もあるので、問題を指摘するのに行為者の性別を変えるってのは案外いい方法かも。まあ大の大人にそんな丹念な導きが必要かって話だが、あくまで作品が結果的に持つ効用として。
— 紅藍@カクヨムで新作『偽王子事件』連載中 (@akaai5555) May 9, 2024
※以前考えていた「美少女におっさんの趣味をやらせる系コンテンツ」に、前は考えていなかった視点が生まれた。
でも行為者を外集団にすると「これだから女は」で終わる可能性もだいぶ高いんだよな……。ドカ食いなんて性別関係なくヤバいだろ、とは思うがあんまり行為自体の性質は関係ないしこういうのは。
— 紅藍@カクヨムで新作『偽王子事件』連載中 (@akaai5555) May 9, 2024
※外集団化による問題点も当然存在するわけだが。
問題点
「至る」、正直めっちゃムカついてる。いち糖尿病専門医としてもいち糖尿病患者としても。
— 小野えあ🪓 (@eajoydm) May 9, 2024
専門医として:
— 小野えあ🪓 (@eajoydm) May 9, 2024
食直後に血糖スパイクで酩酊なんてするわけないだろ、たぶんそれ迷走神経反射だし適当なこと言わんで
患者として:
なりたくもない高血糖を何回も繰り返しているけど気持ちよく酩酊なんてしたことない。むしろ具合悪くなる。それを茶化されたような気がして非常に気分が悪い
※病状をギャグとして使用することの問題点。そもそも実態とかけ離れるうえ、スティグマ化の危険もある。
※特に糖尿病などの病気は「患者の不摂生による自己責任」という雰囲気が流れやすい。
個人見解
明らかな悪習慣を、きちんと悪習慣として描く作品の価値は一定程度あるだろう。特に「食事」という、それ自体が肯定的に扱われるべきだと、なぜか自然と思われているものならば。多くの読者が持つ疑いもしない価値観を揺さぶるという意味で、いい作品ではあるだろう。
一方、こうした作品は現実における問題の戯画化や矮小化のリスクが高い。作中ではもちづきさんの状態がかなりヤバいように描かれているが、それでも作品として公開できる程度には「笑える」ようには整えられている。それがスティグマ化の危険性を高めるし、今まさに病気で苦しんでいる人たちには不快なのも当たり前だろう。
一方、サウナにおける「整う」が実は体に悪いことがなんとなく伝わってきたからこその「至る」という表現なんじゃないかとも思う。一見フラットな、しかし実は恐ろしいくらい肯定的な表現。そしてその内実は「実態に即さない理由も分からない肯定化」であるというゆるやかな認識。その絶妙さに出てくる恐怖と笑いが本作のポイントなのかも、と。
現実の患者に対する問題については、それこそ読者の鑑賞態度によってある程度問題を減じられる側面はあるだろう。