「無記名債券」 『ビバリーヒルズ・コップ』:創作のためのボキャブラ講義50
本日のテーマ
題材
「一万ドイツマルク」
「ドイツマルク? なんだ?」
「無記名債券だよ。足はつかねえ」
「盗んだ?」
「い、いやあ、そんなんじゃ」
「いやあ別にいいんだ変なこと聞いて悪かったな。会えて嬉しいよ」
(本編13分ごろ)
意味
無記名債券
債権の存在を示す証券上に債権者の記載がなく、誰でも債権者として行使可能な債券のこと。
債券とは企業や国が資金調達のために発行する証券。債券の持ち主は一定期間ごとに利息の支払いを受け、決められた期日に額面の金額を払い戻される。
解説
作品解説
治安があまり良くないデトロイト出身の熱血警察官、しかし問題行為も多いエディ・マーフィー演じるアクセル・フォーリーが富裕層の街ビバリーヒルズで事件を追う有名な警察映画が『ビバリーヒルズ・コップ』である。デトロイトとビバリーヒルズのまるで違う警察組織の対比から、アクセルの腕は良いが問題のある捜査と、ビバリーヒルズ署の警官たちの良くも悪くも四角四面で生真面目な様子が軽妙に描かれている。
物語の始まりは刑務所にいたアクセルの友人マイキーが出所し彼の元を訪れたところから。マイキーは模範囚だったため一年早く出所し、ビバリーヒルズで警備員の仕事をしていた。その際に盗み出したのが題材で言及される一万マルクの無記名債券だったということ。
これは彼を雇っていた実業家メイトランドが密輸入していたもののひとつで、口封じのために、マイキーは殺害されてしまう。犯人を捕まえるため、アクセルは単身ビバリーヒルズに乗り込むのだった。
ややこしいブツ
さてこの無記名債券だが、いまいちよくわからない。調べた感じ現金そのものではないが、現金と同等の価値を有するもの、という認識でいいのだろうか。ドイツの通貨マルクなのは、時代的な背景もありそうだ。本作の公開は1984年でいまだ冷戦中。西ドイツのマルクは東ドイツのものより価値があり西ドイツも経済好調だったようなので、投資対象としては納得なのかもしれない。
無記名債券自体は上記のリンク先の通り、商品券や劇場の入場券など実は我々がよく扱うものでもあるようだ。ただ上記リンクふたつの説明を総合して考えようにも「債券」と「債権」という言葉の差がどう関わるのかピンとこないのが実情だ。
ただ最近プレイした『ブルーアーカイブ』のシナリオではアビドス高校の借金の債権を私募ファンドが購入していたので、種々の描写から判断して……。ここでマイキーが手に入れた無記名債券とは単なる一万マルクではなく、一万マルク分の借金の権利のことだろう。債券とはその権利を記した紙切れ(証券)。ゆえに利息の支払いが発生する。無記名であるから誰がこの権利を行使してもよく、ゆえにマイキーが盗んだしメイトランドも密輸入の物品として扱っていた……ということだろうか。
経済系の話は非常に込み入って分かりづらいが、本作を視聴するうえでは「なんか高そうなヤバいブツ」くらいの認識でいいだろう。まあここで麻薬持ってこられても困るしな……。それとも当時の観客は無記名債券をぽんと出されてすぐ重大さに気づけたのだろうか。
情報
『ビバリーヒルズ・コップ』(1984年公開)
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