「ライブ・アクション」 辻真先『仮題・中学殺人事件』:創作のためのボキャブラ講義10
本日のテーマ
題材
ライブ・アクションというのは動画用語である。ミュージカルやアクション場面を、ぶっつけでマンガ映画の動きにするのはむつかしい。そこで、ディズニーなどのよくやる手法だが、作画家たちの前で、人間が踊ったり格闘したりしてサンプルをしめすことだ。
(第一話・仮題)
意味
ライブアクション
特定の動作をアニメに落とし込む際、実際の人間の動作を参考に描き起こす方法。
解説
作品解説
前回に引き続き取り上げる『仮題・中学殺人事件』である。ここでも題材となるシーンはキリコと薩次が主人公となる作中作についてだ。本の虫であるキリコは兄が少女漫画家山添みはるのインタビューに行くのを聞きつけついていく。しかし駅で待ち構えた漫画家先生は、九州で起きた編集者石黒竜樹の殺人容疑で捕まってしまう。その事件の謎を追うのが第一話の中心的な主題である。
筆者は当時の少女漫画に詳しくはないのだが、ここで語られる少女漫画のありかた……編集者が漫画原作者的な立場になっていることとか、ひとつの出版社に強く縛られていることなどはどこまで正しいのやら……。大学院でいろいろ研究をしていると、時折「偏見まみれ」な文章を見ることが多く、そういう手つきで書かれた文章はなんとなく感じが似ているのだが、本作の少女漫画描写にも不思議とそれらしい気配を感じるのはなぜか。まあ少女漫画の在り方なんてここではさほど重要ではないのだが。
この話で扱われるのは列車を使ったアリバイトリックだ。被害者の石黒が殺害されたのは佐賀。容疑者の山添は特急「かもめ」に乗っていた。死亡推定時刻諸々から山添が列車に乗っていれば石黒を殺害する暇はない。しかも山添はその列車の食堂車にいたのを目撃されている。さて、本当に彼女は石黒を殺害したのかという話。
この手の時刻表トリックは風化しやすいものだし、出されてもちんぷんかんぷんな部分が多い。まあ今回に限ってはこの作中作の作者、桂たちにとって「時刻表を付与すること」が重要な意味を持つわけで、なるほどこういう使い方なら悪くないなという印象を抱く話でもあった。
現代的な手法
ライブアクションは作中での説明の通り、アニメや漫画のいわゆる「二次元」に特定の動作を落とし込む際、実際の人間の動作を参考にする手法だ。
特に現代においてはモーションキャプチャの充実や、とにかくリアリティのある動作を求める需要などからこうした手法は多く取り入れられていることだろう。外連味のあるアクションとかならともかく、現実に即した動作をアニメーションに落とし込むなら、そりゃ現実の人間の動きを参考にした方がいいに決まっている。
別の意味
一方、ライブアクションについて調べると別の意味の手法も引っかかった。特殊撮影技術のひとつで、実写とアニメを同一画面で合一する方法もまたライブアクションと呼ばれるようだ。
少し捉えにくいが、要するに実写にアニメを合成するやり方のことを言っているのだろうと思われる。実写にCGを合わせることが一般的となった現在では、しいて特別な呼び方をする必要もなさそうな技術である。技術の進歩で一般化し、呼び方をあえて規定する必要がなくなり言葉として消失する、ということも語彙の世界では起こりうるのだろう。
情報
作品情報
辻真先『仮題・中学殺人事件』(2023年4月 東京創元社)