「別班」 高橋慶太郎原作アニメ『ヨルムンガンド』:創作のためのボキャブラ講義14

本日のテーマ

題材

「近年の自衛隊、情報保全隊、中央情報隊もまた、機能しているとは言い難く、戦中から今日に至るまで、幾多の組織が現れては消えを繰り返す。F機関、河辺機関、陸幕調査部別班。ベトナム戦争時代、アメリカ人は入りにくいが日本人ならば潜入可能な地域の情報収集のため現れたSR班は、その中のひとつだ」

(アニメ二期第5話「嘘の城phase.1」)

意味

別班 べっぱん
 日本の自衛隊における諜報組織。いわゆるスパイ。


解説

作品概要

 世界的な海運王の娘で武器商人の女性、ココ・ヘクマティアル。彼女の私兵として世界を渡り歩き武器を売る仕事に帯同する、武器を憎む少年兵ヨナの物語を描くミリタリ漫画作品『ヨルムンガンド』。原作自体も比較的短く、アニメで結末まで一通りさらうことができるため各種映像作品配信サービスで手軽に確認できる本格ミリタリアニメとして評価は高い。

 ココが武器を売り歩く場所は多岐にわたる。戦地のど真ん中で欲望むき出しの軍隊を相手にすることもあれば、それこそ軍隊を統制する政治家相手に商談をすることもある。様々な状況での武器商人の仕事を見ることができるのも本作の魅力だ。

 本日のテーマとなるエピソードは、ヨナの同僚でありココの私兵のひとり、日本人のトージョが中心となる。彼の古巣であるSR班が、ココの兄で同じく武器商人のキャスパーとかち合う。SR班は武器売買で東南アジアルートを渡り歩き、同じ東南アジアで商売をしているキャスパーの邪魔になったのだ。縄張り争いの助っ人に駆り出されたココたちは日本でSR班の一部を相手取ることになる。SR班の班長であり元上司の日野木について「石のような人」と堅実さを意識するトージョだったが、彼の思惑とは逆に乱暴な作戦をSR班は見せる。

語義

 スパイ組織というものはいつの時代も人々の心をつかむフィクショナルな存在だが、当然実在もする。アメリカにおけるCIA、イギリスにおけるMI6のような存在が日本における別班である。とはいえ、秘密組織であることを除いてもあまりぱっとしない印象なのは日本の情報戦、秘密戦に対するスタンスなどが明確ではないことなどが原因だとトージョは作中で語っている。確かに日帝時代から、とかく日本というのはこういう戦術が苦手そうな印象がある。

 さてそんな別班だが、7月から放送しているドラマ『VIVANT』でも登場しているという。今回思い出したように記事を書いているのもその影響だ。

 公安が戦前の特高からの遺伝子を引き継いでいることが指摘されるように、別班もまた日帝時代から続く負の遺産であるという指摘がなされている。特に問題なのが文民統制、つまりシビリアンコントロールが取れていないということだ。要するに軍隊側で好き勝手動いていて時の首相などがそれを知らない。関東軍の一件を持ち出すもなく、軍隊が文民統制から離れた状態が危険なのは言うまでもない。特に現在の自衛隊は、商業右翼を講師として招いてしまうような組織である。

情報

作品情報

高橋慶太郎『ヨルムンガンド』(2006年4月~2012年1月 小学館)

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