創作における「強い女」の成功と失敗:創作のための戦訓講義60
事例概要
発端
近年のスーパーヒーロー映画やドラマでしばしば出てくる、「”有害な男らしさ”満載のダサい男”を、やたら独善的で人の話を聞かない女ヒーローがボコボコにする」というプロットがどうにも無理だったりします… https://t.co/gtmGMQmW5U
— HirokoYayane⚡️雑談用 (@chat_le_fou) February 10, 2024
これ下手くそクリエイターがよくやりがちな「強い女」描写とも似てますね。
— 芦花公園(ろかこうえん) (@ROKA_KOUEN) February 10, 2024
パワハラ親父が性転換しただけやん!みたいな女が出てくる https://t.co/ISpJG1L7QH
※いわゆる「強い女」的描写がズレている、下手だなと思う時があるという話。
※ネット上で否定的に語られるアメコミ映画やハリウッド映画の、特にこの手の話はけっこう曲解されたり誤読されているケースがあるのでその辺は差っ引いたほうが良いかもしれない。まあ今回は個別の事例の有無はあまり主題ではないので。
当時の私見1
確かに「強い女」描写の中には古臭い男っぽさを性別逆転しただけのものも散見されるが、逆に現代風の「強い女」を描写する前にそこを一回通過したいという欲求と手続きでもあるのかなと思っている。 https://t.co/dN77FiR3ed
— 紅藍@カクヨムで新作『偽王子事件』連載中 (@akaai5555) February 10, 2024
いきなり女性主役描写をこれまでないがしろにしてたのに現代最先端レベルまで洗練させろってのも無理があるし、散々男主人公でやってた暴虐っぷりを女主人公でやってみてー! も普通にあるだろうしその欲求発散は結構大事なものでもありそうなんだよなあ。
— 紅藍@カクヨムで新作『偽王子事件』連載中 (@akaai5555) February 10, 2024
あとマジョリティとマイノリティの属性を単にひっくり返しただけ、というのがかなり大事なことって多いし。一回そこ通過してないがしろにされた分を手っ取り早く発散してから次行きたいよねとは個人的に思うし。
— 紅藍@カクヨムで新作『偽王子事件』連載中 (@akaai5555) February 10, 2024
当時の私見2
旧弊的な男性像をスライドさせただけの「強い女」描写、たしかに性別変えただけだけど、そもそもその「性別変えただけ」を今まであんまりやらなかったじゃん! みたいなこともある。そのくせいざ今まであんまりやらなかった事例をやったら「性別変えただけだよねえ」ってのもなんかアンフェアだな。
— 紅藍@カクヨムで新作『偽王子事件』連載中 (@akaai5555) February 10, 2024
コロンブスの卵的な部分ではあって、熱狂が覚めると「あれ?」とはなるけど、逆に熱狂の反動で批判的になるとスタートがそもそも困難だった事自体を忘れがちになるやつ。
— 紅藍@カクヨムで新作『偽王子事件』連載中 (@akaai5555) February 10, 2024
例えが悪いけど、環境問題で散々先進国が排気ガス出しまくったくせにいざ発展途上国が経済発展しようとして同じように排気ガス出しまくると先進国から批判が飛ぶ的な。DV親父を女性にしただけのような「強い女」像ってそういう段階ってだけじゃないかな。
— 紅藍@カクヨムで新作『偽王子事件』連載中 (@akaai5555) February 10, 2024
それこそ創作物の男らしさが長年培われて現実における有害な男らしさを形成してきたのに比べれば、その有害さを性別転換しただけの女性像なんて極めて短時間通り抜けるだけの中継地点みたいなものじゃないかな。
— 紅藍@カクヨムで新作『偽王子事件』連載中 (@akaai5555) February 10, 2024
もちろん批判しないとそこにとどまってしまう危険はあるけど、それこそフェミニズムとか、女性表象に関する批判言説は男性のそれより散々やられてるから大丈夫でしょとも思う。
— 紅藍@カクヨムで新作『偽王子事件』連載中 (@akaai5555) February 10, 2024
当時の私見3
そもそも俺はパワハラ親父を性別転換しただけの「強い女」自体パッと実例を思いつけなくてな……。キャプテンマーベルは見てないし。というかキャプテンマーベル本当に作中そんな感じか? 聞いていた評判とだいぶ違うんだが。
— 紅藍@カクヨムで新作『偽王子事件』連載中 (@akaai5555) February 10, 2024
かなり極端な例だと『マッドマックス怒りのデスロード』をアンチフェミニズムだと曲解していた馬鹿もいたのでこの手のネット上で展開される作品批判は一度眉に唾つけたほうがいいかもな。
— 紅藍@カクヨムで新作『偽王子事件』連載中 (@akaai5555) February 10, 2024
※上記の例は「分かり手」と呼ばれるお馬鹿さんのこと。
性別を入れ替えるだけが重要ってのはまさにそれで、男性だと型破りで破天荒な天才キャラと評されるが、同じことを女性がするとヒステリックで我儘扱いされる、というのをまさに浮き彫りにしてましたみたいな結果もあるわけだからな。
— 紅藍@カクヨムで新作『偽王子事件』連載中 (@akaai5555) February 10, 2024
同じキャラづけが性別を変えると鑑賞者からの評価が反転するという状態自体を浮き彫りにするための設定でした、とかの可能性を加味すると性別を変えただけのパワハラキャラであることこそ重要、みたいなケースもありうるしなあ。
— 紅藍@カクヨムで新作『偽王子事件』連載中 (@akaai5555) February 10, 2024
むしろ下手な「強い女」像って個人的には女性性が強く出ているというか、分かりやすくそれっぽいバリキャリ風の気が強い(≒ヒステリック的な)キャラ設計として出てくる感じがするんだよな。強い「女」を希求するから性別入れ替えただけのパワハラ親父キャラに留めるのは難しいかも。
— 紅藍@カクヨムで新作『偽王子事件』連載中 (@akaai5555) February 10, 2024
まだ序盤しか見てないから引き合いに出すのもどうかと思ったんだが、最近その手の下手な「強い女」キャラでパッと思いつくのは『鴨乃橋ロンの禁断推理』の女刑事雨宮かなあ。「これいつの作品?」って確認したくらいだからね。
— 紅藍@カクヨムで新作『偽王子事件』連載中 (@akaai5555) February 10, 2024
実際主人公の刑事にやってるのはしっかりパワハラだしね。チーム内でひとりだけ粗末なファイルラック作ってそこに雑用放り込んで視覚的にも「役立たずです」と見せつけるのとか。そして主人公の探偵の方に一目惚れして「乙女の顔」見せるのとか、これ2020年からの作品なんです!? ってレベルだよ。
— 紅藍@カクヨムで新作『偽王子事件』連載中 (@akaai5555) February 10, 2024
個人見解
入れ替えることの重要性
今回の事例における「下手な強い女キャラ」は、パワハラ親父が性別転換しただけ、という状態をイメージされている。穏当な例えなら『ヒート』で言うところのヴィンセント刑事を女にしたような感じだろうか。よりネガティブなイメージとしては『マイル22』のジルバとかかなあ。
個人的にはこの「パワハラ親父を性別転換しただけの下手な強い女像」の存在自体にやや疑問を抱いているが、それは後にして。仮にそうしたキャラクター像があったとしても、それはそれで大事なのではないかという視点で考えている。
ひとつは、ある属性によって同じような振る舞いをする人物が真逆の評価を受けうる、という点だ。それこそ『ダーティハリー』のような人物が男性ならば「ルールを破ってでも自分の正義を貫く孤高の男」と評されるが、女性ならば「ヒステリックで我儘に周囲を振り回す女」と評されるような、そんな感じだ。制作側、そして鑑賞者側にあるこうした属性による評価の偏りを浮き彫りにする、という点でただ属性を入れ替えるだけ、という行為には一定の意味がある。
またシンプルに一種の代償行為、いわば埋め合わせということも考えられる。『ダーティハリー』のような男に憧れ、キャラハン刑事というロールモデルを目指しアメリカ中の白人男性たちが銃を構えたとしよう。その結果割を食うどころか撃たれて死ぬのはマイノリティなわけだ。そういう時代が長く続いたのだから、実際に現実で人を撃つことはしないまでも、マイノリティ版キャラハン刑事が傍若無人に振る舞うところを見たい! 白人犯罪者どもを正義の裁きとばかりに撃ち殺す映画が見たい! と思ったとて不自然ではない。
またこれらのただ入れ替えただけの「強い女」像は通過地点に過ぎないとも考えられる。まさに今回こうした批判が展開されたように、女性表象に関する批評は蓄積があるので、人物造形に問題があればすぐ批判され、アップデートされうるだろう。フィクションの男性描写が長らく有害な男らしさの価値観を蓄積してきたのに比べれば遥かに短い時間だけ、下手くそな強い女描写はそこを通過するだけなのだからまあそんなに気にするものでもないだろう、と。
下手な強い女像の個人見解
それで今回の話題においてイメージされる「強い女」像に疑義を唱えた部分へ立ち返ろう。私が今回話題に上がった『キャプテンマーベル』などを見ていないということもあってか、発話者の中で想定され共有された「パワハラ親父を性別転換しただけの強い女像」が失敗事例としていまいちイメージできなかった。
あらためて考えてみると、ここには焦点を合わせるポイントの差異がある。発話者たちの意識は「強い女」のうち「強い」部分により集中し、間違った、下手な強さとして「パワハラ親父」をイメージする。つまりキャラ造形として「強い」要素を見誤っている、という発想だ。
私のイメージする下手な「強い女」像では、「女」という属性に着目することになる。つまりキャラ造形が失敗する理由は「強い」要素の取り間違いではなく、生成されるキャラクターが「女」という属性であるために出力を間違える、というイメージだ。
ゆえに私が想起する下手な「強い女」キャラ造形はむしろ女性性と強く結びつく。家庭より仕事を取り、言葉はとにかく強く、むしろ感情的で、しかし美しい。物語のどこかで男性と恋に落ち懊悩し……。まあ要するに日本のテレビドラマに出てくるちょっと気の強い女性キャラ、くらいのイメージかな。
実例1『KATE』
強い女像の下手な実例として何かなかったかと思い返して見つけたのがこれだ。Netflixオリジナル映画なのだが、公開前のPVの時点で、日本人の悪党を殺しまくる内容がアジア系アメリカ人に不評だったらしい。いわくこの映画は白人のフェチズムのためにアジア人を利用していると。
Netflixの新作「ケイト」、日本を舞台にして主人公の白人が日本人の「悪党」を殺しまくる映画。トレイラーの段階で日本では割と好意的に受け取られているけど、アジア系アメリカ人には大不評。
— 竹田ダニエル(『#Z世代的価値観』『世界と私のA to Z』) (@daniel_takedaa) August 5, 2021
「アジア人は白人にフェチ的に消費されるためだけに存在しているわけではない」 https://t.co/7vTGyHb3l0
そこは本筋ではないので映画を見てもらうか上記レビューブログを見てもらうとして。本作の主人公である女性殺し屋のケイトは、殺害対象を射殺する際に近くに対象の子どもがいて、その子の目の前で殺害してしまったことが動揺を誘い引退の理由になる。引退後は家庭を作ることが想定され、セックスにもネガティブではないのでベッドシーンもあり……と、要素を並べるといかにもである。
実例というか、おそらく「下手な強い女像」について私の無意識にあった作品がこれだろう。
実例2『鴨乃橋ロンの禁断推理』
さて実例の2つ目はアニメを最初の方しか見ていないので言及するのはどうかと思ったが、割と最近の作品の中では分かりやすい「下手な強い女」像ではあるので言及しておこうという作品だ。
主人公の刑事の上司にあたる女刑事雨宮が問題の人物で、こちらは分かりやすく「パワハラ親父を性別転換した」ようなキャラ造形だ。それでいてイケメン探偵には「乙女の顔」をするという完璧っぷり。
実例をふたつ並べて考えたのだが、こうした下手なキャラ造形はまず「女性キャラである」という前提から出発すること自体が失敗の元なのではないだろうか。強い女性キャラはすなわち従来と違う女性キャラということでもあり、ならば家庭より仕事だし性には奔放だよねというメカニズムで作らるならまあ納得だ。
一方で「パワハラ親父」つまり男性性への分析が浅ければ、「強い」要素を取り間違いそのまま女性キャラに付与することもある。そして女性キャラなんだから恋には落ちる、と。
従来の女性性から逆転した要素を持っているかと思えば普通に旧弊的な女性性も持っている、そして先進的なキャラ造形のつもりのはずなのに古臭いおっさんのようでもある。一見一貫性のないキャラ造形だが、そもそもが下手なんだから一貫性なんてあるはずがない、ということでもあるかもしれない。