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リスク管理しすぎてない?

管理的なホームを変えるにはどうしたらよいでしょうか。

5年前に人事異動で認知症グループホームのホーム長になった時、うちのホームはとても管理的で、歳月をかけて少しづつ利用者さんを中心に考えられるホームにしてきました。
管理的になってしまっていた原因の一つとして、リスクマネジメントの捉え方が間違っていた事があげられます。
そこで今回、リスクマネジメントの考え方をまとめることで、管理的なホームにしない方法を考察したいと思います。

管理的なホーム

私が平成27年に人事異動でホーム長になった時は、とても管理的なホームでした。どんなところが管理的だったかと言うと、以下の様な事が日常的に行われていました。

①包丁を使わせない

認知症グループホームとは
家庭的な環境のもとで家事などの生活行為をすることで、認知症の予防や認知症でも尊厳を持って生活する事ができるようにする
という入居型の事業所です。

それなので、家事を行う事はグループホームに期待される機能なのですが
当時のホームでは、利用者さんは調理を一切行っていませんでした。
もちろん、包丁なんて使えません。
理由は利用者さんが包丁を持つ事を、職員が危ないと考えているからです。

②玄関に鍵が掛かっている
利用者さんが出て行ってしまう事を危惧して常に玄関の鍵は施錠してありました。
更に玄関が開くたびにファミリーマートみたいな音が鳴るようにもなっていました。

③外出はしない
外には一切出ません。職員に出るという発想自体がありませんでした。

④利用者さんが立ち上がると、職員が「どこ行くの⁈」と聞く
言葉では
「どこいくの⁈」
と聞いていますが、言っている意味は
「座ってて!」
です。
本人からしたら座ってなくてはいけない理由などあるのでしょうか。

職員が管理的になってしまったのはなぜ

では、職員が管理的になってしまったのはなぜなのでしょうか。

上のような対応をする理由を職員に聞くと
「決まった事だから」
と返ってきます。
どこで決まったのかを聞くと
「リスクマネジメント委員会の防止策で」
との事です。

職員はリスクマネジメントを検討する委員会で決まった事を基に動いているようです。そのリスクマネジメント委員会で行われていたのがヒヤリハット活動でした。

ヒヤリハット活動とは

ヒヤリハット活動とは、ハインリッヒの法則に基づいた一つの重大事故の裏には同じ性質の29件の軽微な事故・災害があり、その裏には事故には至らなかった300件のヒヤリとしたりハッとした事例が隠れている

という考え方で
「ヒヤリ」としたり「ハッ」とした事を小まめに見つけて対策する事で大きな事故を防ごう
という取り組みです。
工事現場や工場などで多く取り入れられており、最近では病院や介護現場で取り入れているところがあります。

ヒヤリハットの活動の罠

当時のホームではヒヤリハット活動にかなり力を入れており、ヒヤリハット事例を見つけて記録に残し、月末に集計をし、集計を基にリスクマネジメント委員会を開催して防止策を作成していました。

リーダーおよび職員はヒヤリハット活動をすることに誇りを持っていました。過去にヒヤリハットの集計の取り組みが第三者評価で高評価された事があったからのようです。

小さな痣や傷や利用者さんが物を落としそうになったり、躓きそうになったり、利用者さん同士で喧嘩になりそうな場面があったら、その都度それを記録に残します。
そして、月末にヒヤリハットの集計をして分類をして、リスクマネジメント委員会で対応策を検討する、という流れです。
なんと、多い時には月に50件近く上がっているのです。
委員会で対応策を検討するのですが、検討した対応策は、因果関係が見いだせないから、結局「見守りしよう」的な事になります。
しかし、上記内容を起こさないようにしようとしたら、物を持たせない、立ち上がったら歩かせない、利用者同士の関係性を作らせない、となっていくのは明らかです。

ヒヤリハット活動自体は悪い事ではありません。
しかし、このヒヤリハットはいくらやっても良い方向に行く感じがしませんでした。
それは、
ヒヤリハットの対象を利用者にしていた
ところです。
対象を職員のミスやホームの環境にするのならわかります。事故に至らなかった人為的なミスを見つけて集める事でミスの傾向を探る事ができるからです。
しかし、対象を利用者にしてしまうと
利用者さんは認知症が原因で失敗をしてしまうものなのに(だからホームに入っている)
利用者さんに失敗をさせないようにしよう
となってしまいます。

そもそも無理なのです。

対策をすればする程、利用者さん自体が原因というジレンマに陥ります。
結果として、調理させない、立たせない、となってしまっていました。

ヒヤリハット活動の対応策はどのようにすれば良いか

また、対応策がよくありませんでした。
対応策が、上に書いたように、
包丁を使わせない
玄関から出さない
立ち上がらせない
と利用者の行動自体をやめさせるものでした。そりゃ事故が起きる訳がありません。

ヒヤリハット活動は建築現場などで行われていますが
対策が
工事をしない
とはならないでしょう 笑
工事をする事は大前提で事故を防ぐにはどうするか
となっているはずです。

ヒヤリハット活動を介護現場で行う場合も同様に
利用者の自由を保障した上で、事故に繋がらない対策を考えるべきなのです。

ヒヤリハット活動をやめるしかない

これを理屈で話しても理解してもらえません。何度も当時の現場のリーダーにお話ししましたが無駄でした。事故がないという事実があるからです。事故が無い代わりに、利用者の自由も奪われている事に気付かないのです。

ホームでのヒヤリハット活動は、やればやる程

利用者さんの行動が狭められる

と同時に

①事故がない
②ヒヤリハットを集めるという活動自体に職員が一生懸命になる

という仕組みになっていました。

つまり

利用者を抜きにしたところで職員の頑張りが承認されるのです。

それなので、ヒヤリハット活動の月末集計と対応策の会議を中止しました。

リーダーは納得していませんでしたが、仕方がありません。利用者さんの為です。
幸い職員は、集計が面倒臭いと思っていたようで意外とスンナリと受け入れてくれました。

ヒヤリハット活動をやめた結果

ヒヤリハット活動をやめた結果、利用者さんは自由になりました。
上に書いた事はなくなり、ホームのカギは開いているし、利用者さんは包丁を使って料理をするし、自由に動く事もできます。利用者さんの笑顔も増えました。

そして、少しづつ

利用者さんのその姿をご家族が知るようになります。

家族は、自分のお母さんがかつてのお母さんのように調理をしていたりする場面を観てホームや職員に感謝してくれるようになります。

認知症になってもお母さんらしくいてくれること、に対してです。

そうなると

外に出てしまって行方不明になっても
転倒して骨折してしまっても
ご家族は仕方がないと思ってくれるのです。
それよりも、日々の取り組みを評価してくれます。

もちろん、事故で利用者さんが痛みや苦しみを持ってしまう事は辛い事です。
しかし
骨折しても、また歩けば良いのです。また歩けるようにベストを尽くします。

予防しすぎて毎日を不自由させてしまうのではなく
一日一日を大切にできるように支援する事が
認知症の方の幸せにつながる
と強く思っています。

今を大切にしないケアは
明日も大切にしないからです。

日々のケアを利用者さんの為に徹底することが一番のリスクマネジメントだ
と私は考えています。

まとめ

今、介護現場ではヒヤリハット活動をしているところはかなり多いと思います。
うちのホームで行っていた活動を悪い手本として、利用者さんが毎日を充実して生活することに活かして欲しいと思い書いてみました。
私の実感としては
認知症ケアにおいては
利用者さんは失敗してしまう事の方が多く
事業所は失敗を大らかに受け入れられる場所であるべきです。

その為には
リスク管理をしすぎず
未来の予防ではなく

今の利用者さんのできる事は徹底してやる

という事に集中した方が、リスクマネジメントになると考えます。


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