インド1人旅 9
チェンナイからマドゥライに行くバスはこのバス停からは自分とインド人のルーク(仮名です)の2人だけだった。ルークの子供は明日誕生日みたいで、1日滞在のあと、チェンナイに帰る。「なんかあったら言ってくれよ」と途中、バスが停車した時にトイレに行くかと起こしてくれたりした。おれは1人でいたくているのにどうして優しくできるんだろうな、なんて斜に構えた気持ちは自分の中には全くなく、感謝の気持ちがずっと残っていることに気がつく。もしかしたら自分では何もできないとどこかでわかっているからなのかもな。
朝5時にマドゥライに到着したものの、郊外に下されたので、ここから街の中心部に歩くには距離あるなーと思ったら、ルークがリキシャを相乗りにしてくれた。
「なおきホテルとったのか?」
「ううん、おれはいつもその場所についてから決めるんだ」
「そしたらおれが安宿何軒か教えてやるよ」
ルークの誘いに乗り、2軒ほど安宿を巡ったあと、ルークが教えてくれた宿の隣がどうやらちょうど空きが出たみたいでいい値段でチェックインができた。
南インドのホテルは24時間制で、チェックインの時間を少し工夫すれば電車の発車ギリギリまで滞在できたり、なかなか便利だ。
ホテルの人に宿を一個押さえて、チェックインをお昼過ぎにしてもらえた。これで次の街に行くとしても朝からチェックアウトせずに済む。
この旅を通して南インド料理をたくさん食べたけど、どれもたくさんの特徴があっておもしろくて、おいしかったーー。
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この街に来た理由のミーナクーシー寺院。
マドゥライの街の中心地ははこの寺院を取り囲むように形成されており、中心部に近づくに連れて、突如姿を表す。
寺院の佇まいはまるでこの街の人々の誇りと祈りを象徴しているようだ。
ジャイナ教の人々にとって聖地的な場所であり、国内外から巡礼を目的に来る人が後を絶たない。日本にいる時に世界遺産の雑誌で見かけたこの寺院は気づいたらインド旅行の1つの目的になっていた。
これを見たいという気持ちだけで来た感覚は、この熱い気持ちが冷める前に船を出さなきゃ!という、まっすぐな気持ちに似ている。
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南インドのミールズ。ここのミールズが
旅行を通して一番美味しいご飯だった。
南インドではチャイだけではなく、コーヒーを飲む文化も強く残る。南インドでは、ミルクコーヒーを食後に飲む。チャイもコーヒーも北インドでは砂糖が最初から入っているからお店によってはすごい甘いんだけど、南インドでは砂糖を後入れするから甘さの調節ができて、自分好みにできる。
観光客向けではなくて、現地の人に混じって食べり飲んだりことがその土地、国に旅行者が1番近づけるような感覚が楽しいし、体臭を纏いながらする旅が1番実感がある。
ここのミルクコーヒーが1番美味しかったー。
ガンジー博物館。
インドはたくさんの言語、宗教が入り混じる国だけど、そこから溢れる多様性、文化許容の暖かさはこの国の大きな特徴だ。
そして、それは今便利に生きていくことができる世界にいる自分たちに一番必要なこと。
ガンジーの博物館の帰り道、大通りに向かうために大きな一本道を通っている時、真っ直ぐ続く道をぼーっと眺めていると、なんだがたまらなくなる。温暖な気候のせいなのか、北インドでは感じることのなかった南インドで出会った人々の暖かさなのか、頬を撫でる暖かい風がすこし気持ちを切なくさせたり、
胸をぎゅってさせる。
振り返るとコロナ禍で計画してたものがなくなったり、たくさん悩んだり、間違えたりしたけど、そのおかげで向き合えたり、気がついたらこんなとこまでこれるようになったんだな。
あの時出会えてなかったら、あのタイミングで近づいていなかったから、行動を起こしていなかったから、たくさんの 瞬間 の重なりがひとつでも違ってたら今はこうなっていない。
ひとつのバスを逃したり、
1日早い電車に乗っていなかったら
出会えてないもの、人もある。
きっと人の一生もそうなんだろう。
ひとり旅は少しわかりやすい形で
俺の前に現れてくれて魅せてくれる。
今歩いてる足は、
あの時より強いし、立派だ。
そんなふうに全てを受け入れられるようになれるまで、少しはマトモになったのかな。
この不思議な感傷的だけど暖かな気持ちは、
夏そのものだった。
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マドゥライ駅でバンガロール行きの列車を
ホームの階段で座ってぼーっと待っている。
「おー、旅行してるのか?」
「あぁ、インドをデリーから回ってるんだ、南インドはいいね」
「そりゃそーだろ。お前のその座ってる姿、なんかいいから写真撮ってヤローか?」
「なんかいいってなんだよ、まぁありがとう」
サマになってるってことはちょっとは、
インドの におい がついて、
たくましい出立ちになったのかな。
マドゥライ、素敵な街だったなぁ。
電車に乗る前に少しホームに振り返って、
その名残惜しさをさよならと混ぜて、
空に浮かばせる。
また、いつか。