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論理国語「書くこと」でわかる〈知識・技能〉,まわる〈思考力・判断力・表現力〉

1_はじめに-くるくるまわる国語力-

「習って読んで 使って書いて 話して聞いて わかってくる くるくるまわる国語力」の実践とその理論について発表します。実践したある単元を題材に、生徒の取り組みや成長の具体例を用いながらその効果や可能性について説明します。この実践の学習理論等との関連も示しながら、『論理国語』の授業のデザインについて提言するものです。なお今回の単元テーマは「論理的に読む・書く」で、活用する「知識・技能」は“接続表現”です。

2_「読むこと」偏重への疑問-読むだけで読む力は伸びない-

実践の出発点は2つあります。一つはこれまでの経験上、小論文演習を多くやった生徒が、おしなべてその後国語の読解力が上がる傾向があったこと。二つ目は学習指導要領(新課程)の「論理国語」の「内容の取扱い」として、「A書くこと」の指導について「50~60単位時間程度を配当するもの」とあり、明確に「B読むこと」だけに偏らないようにすることが意図された点です。

学力の3層構造

旧課程「現代文」において自分の授業は「読むこと」一辺倒でした。「書く」といってもそれは内容の解釈や要約といった、「読んで理解したことをまとめる」という「読むこと」の領域にとどまるものでした。当然ながらその指導の先には「共通テスト(センター試験)」「大学個別試験(いわゆる二次試験)」への対応が想定にあったわけです。しかし、いくら読む知識・技能を教えて練習しても、結局はそれを活用しなければ身に付かないのではないか? 「思考力・判断力・表現力」を育てることにもなっていないのではないか? という確信に近い疑問が浮かびました。その導きとなったのが次にあげる「学力の3層構造(石井2012)」の概念です(図1)。「ドリブルやシュートの練習(ドリル)がうまいからといってバスケットボールの試合(ゲーム)で上手にプレイできるとは限りません。ところが生徒たちはドリルばかりして、ゲーム(学校外や将来の生活で遭遇するホンモノのエッセンスを保持した活動)を知らずに学校を去ることになっていないでしょうか」という比喩(石井2023)には、自身が抱えていた長年の疑問が端的に表れていたように思いました。自分の実践は「ドリル(知っている・できる)」が多く、せいぜい「練習試合」程度でした。つまり「読むこと」の知識・技能の習熟にとどまっていたように思います。例えば「したがって」や「つまり」など接続表現の意味用法を教え例文の穴埋め問題でドリルして(「機械的習熟」)、それを手がかりに実際のテキストを読解する(「機能的習熟」)といった授業です。「わかる」レベルを目指しているのに学力の3層構造「知っている・できる」にとどまるものだったのです。


「基礎に降りていく学び」

ところで、学力の3層構造は「『基礎から積み上げていく学び』(知識を完全にマスターした上でそれを使う目的意識的な活動を行う)だけでなく、『基礎に降りていく学び』(目的意識的な活動をしながら必要に応じて知識を学ぶ)の道筋も示して」います(石井2015)。さらに肝に銘ずべきは「『完全にわかりきらないと次に進むべきではない』と考えると、中学・高校でしばしば見られるように、授業は復習中心になりがちです。しかし、授業の冒頭で復習が長く続く授業は、学習者の学ぶ意欲をそぎがちであり、その後にいくら新しい魅力的な内容や教材を準備しても、すぐ学習者はその日の授業に失望してしまっている」(石井2015,p51)ということです。この指摘から、知識の習熟がややおぼつかない状態、言わば「半わかり状態」であえて「使える」レベルの課題に挑戦させる(もちろんその難易度は考慮しますが)というアプローチをすることで、結果的に「わかる」ことをめざした学習よりも「わかる」ことを保証するようになるのではないか? という仮説が成り立ちます。学力の3階層をダイナミックに上り下りすることで、教科の枠にとどまらない汎用性・転移性の高い能力として内面化されていくのではないでしょうか。
したがって、論理国語の単元「論理的に読む・書く」構成を、「接続表現」の知識説明(知っている・できる)、論理的文章の読解(わかる)で終わらせず、「接続表現を用いながら自分の意見を書く」という「使える」レベルを組み込むことにしたのです。

3_「話すこと・聞くこと」「書くこと」「読むこと」の回廊ー思考力・判断力・表現力という“渡り廊下”


図2 単元の設計シート

学力の3層構造を意識した単元ー逆向き設計

今回扱う単元は「論理的に読む・書く」です。ここで単元の設計について説明します。「主体的・対話的で深い学び」を実現するためにはまず「目標―内容―方法―評価」が一体的にデザインされていることが重要です(松下2016)。そして、「目標」=「育成する資質・能力」を定め、次に「評価基準」=「その能力をどのレベルまで高めるか」を定めてから、その到達水準まで育てられるような「内容(教材)」と「方法」を決めていきます。これが「逆向き設計」です(G.Wiggins J.McTighe 2005)。

「逆向き」と言われるゆえんは、ふつう我々が単元を設計するとき最初に考える「何をやるか?どうやってやるか?」を“あとまわし”にするからです。「結果ではなく内容に焦点を合わせた設計」をやめ、「結果(達成すべき目標)に焦点を当て、その目的にかなった内容(教材)と方法を選択する」という発想です。
ここで身に付けてほしい資質・能力は、「接続表現を手がかりとした論理展開の把握力」と「接続表現を活用して自分の意見を論理的に表現する力」です。その到達度は「接続表現を理解して使いこなすことで、筆者の主張を論理的に読み取ったり、自分の意見を相手に伝わるように論理的かつ簡潔に書いたりできるようになる」という水準を設定しました。
この目標・評価基準を達成するための「方法」の詳細は、以下のとおりです(概略は図2参照)。

⑴ 接続表現の意味・用法を分類して説明しつつ、短文の例文の穴埋め問題で基本的な理解度を確認する(「知識・技能」1/6)(知っている・できる)、別紙資料1
⑵ 1,000字程度の評論文を教材とし、接続表現の用い方を意識しながら展開をつかむ読解をする。(「A読むこと」3/6)(わかる)別紙資料2
⑶ 接続表現を効果的に用いて自分の意見を160字でまとめる(B「書くこと」6/6)(使える)

⑶の具体的な「内容」「方法」は次のとおりです。本校が導入している進路・探究系デジタルプラットフォーム「キャリアナビ」内で毎月更新される「ニュースピックアップ」の記事の中から一つ指定して教材として利用し、その記事の論点についてまとめます。記述の際は「R80」(中島2023)の手法を活用して(別紙資料3)、1文40字めやすで×4点=160字でまとめて(下書き)、書いたものを他者に説明し、批評・助言を聞き入れ(「話すこと・聞くこと」)、修正・清書する。Googleクラスルームの「課題」機能を使って配信、ルーブリックも添付して提示しました。したがって提出・評価・返却はデジタル上で完結させます。



型の習得・活用―定着を目指して

この160字で自分の意見をまとめる課題については、3題取り組んでもらいました。1題目は以下のようにスモールステップで下書きをする方策をとりました(別紙資料3)。
・ステップ1 「意見」とその「理由」を80字程度でまとめる
・ステップ2 予想される反論=「課題」とその解決策=「対策」を80字でまとめる
・ステップ3 それらを合体させ、160字の意見文を完成させる
接続表現を用いて「理由」「逆接(転換)」「帰結」といった前後の論理的なつながりを部分的にまとめる練習をして理解を深め、論理展開を組み立てていくことにしました(2題目以降は、この論理展開を参照しながら、いきなり160字でまとめてみることにしました)。図3にあるような指示をgoogleクラスルームで課題配信し、黒板には本時のねらいを共通確認した上で作業手順を簡単に提示してあります。その際「相手に論理的に伝えようという意識をもち、型にのっとって考え、書く」という心構えについても併せて説明しました。型は活用してみることで習得し、使い慣れることで定着していきます。その意味で、この1本目の取り組みは「知識・技能の本当の意味での習得(「わかる」)」に授業のねらいがあります。「思考力・判断力・表現力」を発揮する(「できる」)ための前段階ということです。
みんなの“つまずき”から学ぶ
自分の意見を論理的に書き、相手に伝えるためには接続表現のはたらきを真に理解し適切に活用できなければなりません。単に「形式マル暗記のアテハメ書き」を訓練すれば、「論理的に書くこと=型ハメ書き」という安易な方向にいとも簡単に流れてしまいます。そうならないために、提出された160字意見文から「よくある“伝わらない”意見文」を合成して、「型通りに書いているのになんだかよくわからない」文章を生徒に提示して、どこがなぜダメなのかを議論してもらうことにしました。「教科や教科外の活動において、『つまずき』(失敗やうまくいかない体験)を自分で、あるいは自分たちで乗り越える経験が、子どもたちの能力や意欲や責任感を育んでいきます。そうした学習機会を保障するには、教師の側にもつまずきを見守れる余裕が必要」なわけです(石井2015)。
この話し合いで出た意見を授業者が整理して解説することで、「主張の理由を説明するとはどういうことか(「なぜなら」)」、「予想される反論・自分の意見がはらむ課題に言及するとはどういうことか(「しかし」)」、「その課題への対策を述べるとはどういうことか(「したがって」)」について、真に理解できます。「こう書いてはいけない」「そう書いても伝わらない」ことを実感した上で「そうではなく、こう書けば伝わるんだ」という理解が可能になります。先述の通り“「半わかり状態」であえて「使える」レベルの課題に挑戦させる”という「基礎に降りていく学び」の実践です。
(後半へ続く)




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