ポラライズドトレーニングについて理解を深める
みなさんこんにちは、川崎です。
今回はポラライズドトレーニングについて書かれた海外記事をご紹介します。
私も以前の論文紹介でポラライズドトレーニングを扱った論文を取りあげましたが、今回の記事は現在の研究ベースでの見解についても詳しく解説してくれています。
TrainerRoadというパワートレーニングアプリを開発している会社の記事を参考にさせて頂きました。
要約、意訳を行っていますので、予めお伝えしておきますね。
それではご紹介していきましょう。
◆ご紹介する記事
ポラライズドトレーニングはトレーニングの大部分が低強度と高強度で構成されたトレーニングプランです。
他のアプローチと違って、ポラライズドトレーニングは中強度帯でのトレーニングはほんのわずかか、もしくは全くありません。
ポラライズドトレーニングはポジティブな研究成果が報告され始め、現在サイクリング界でホットなトピックになっていますが、まだまだ分かっていないことも数多く残っています。
それでは、このポラライズドトレーニングについて解説していきましょう。
ポラライズドトレーニングとは何か?
ポラライズドトレーニングはトレーニング強度分配の一つの方法論です。
トレーニングをどのように配置するか?を考えるときに採用される一つの方法にこのポラライズドトレーニングがあり、トレーニング強度を“二極化”させたような構成をしています。
ポラライズドトレーニングと他のトレーニング方法を比較するため、いくつかの方法を見ていきましょう。
◆ハイボリューム-低強度トレーニング
トレーニングは主に長時間かつ低強度で構成されます。ベーストレーニングとも言われます。
◆閾値トレーニング(Threshold Traing)
トレーニングは主に中程度の強度で構成されます。注意したいことは、LTゾーンやLT強度でのインターバルではありません。(これらは実際高強度にあたります)
◆ヒート(HIIT:High Intensity Interval Training)
主に短時間の高強度なトレーニングで構成されます。
◆ピラミッドトレーニング(Pyramidal Training)
様々な強度をミックスしてトレーニングを行います。その多くは低強度で、中強度と高強度帯はより少なく時間が割り当てられます。
◆ポラライズドトレーニング(Polarized Training)
トレーニングは高強度と低強度で構成され、中強度のトレーニングにはほんの少し、または全く時間を割り当てません。
ポラライズドトレーニングの強度分配は一般的には80%が低強度帯、20%が高強度帯になります。
しかし研究によって分配の定義が異なっていて、ある研究者は各セッションの目的が低強度なのか高強度なのかというセッション単位で定義していたり、他の研究者はパワーを発揮した真の時間で計算している場合もあります。
この2つでは同じ「ポラライズドトレーニング」でも全く違った意味合いになりますね。
何故なら、高強度セッションを考えた場合、その中で実際に高強度のパワーを発揮する時間は数分に限られます。
一先ずこのように分類手法が研究ごとに異なることを頭の片隅に留めておいてください。
ポラライズドトレーニングはステファン・シーラーという方がエリートボート選手のトレーニング方法を観察する中で体系化し、提案されたものです。
ポラライズドトレーニングは3ゾーン分類から生まれたもの
一般的にはFTPを基準にした5-7ゾーンシステムが普及していますが、多くのポラライズドトレーニング関連の研究ではよりシンプルな3ゾーンで分析されています。
◆ゾーン1(低強度)
50%VO2max~LT1(例:血中乳酸が2mmol)のパワーが該当します。血中乳酸が普段よりも上がり始めるポイント(LT1)までの強度です。
◆ゾーン2(中強度)
LT1~LT2までのパワーが該当します。LT2は血中乳酸値が4mmol/Lになる時点と定義されることもありますが、その値は個人によって様々です。このゾーンにはテンポ走やスイートスポットトレーニングが該当します。
◆ゾーン3(高強度):LT2以上のパワー発揮が該当します。つまりFTP以上のパワーになります。
ポラライズドトレーニングを提案したステファン・シーラーはサイクリストに向けてFTPを用いた3ゾーンモデルも紹介されていて、ゾーン1は50~79%FTP、ゾーン2は80~99%FTP、ゾーン3は100%FTP以上としています。
「Polarizing:二極化させる」の意味
時折、中強度帯で行う部分を低強度にあえて落とすことを「ポラライズさせている」と耳にすることがありますが、これは誤った認識です。
中強度のトレーニングを低強度に「ポラライズさせている」ことは、システマチックなトレーニング手法として低強度と高強度に「ポラライズドさせている」とは別物です。
ポラライズドトレーニングはただ「中強度を行わない」ことではありませんので、お伝えしておきますね。
ポラライズドトレーニングに関する研究
ポラライズドトレーニングはエンデュランススポーツで急成長している研究トピックです。
多くの研究がポラライズドトレーニングは他のトレーニング手法と同等かそれ以上の効果があって、特に短期間のトレーニングについて効果があるとしています。
一方でピラミッドトレーニング(3つの強度を全て行う)の方がポラライズドトレーニングと同等かそれ以上の効果があるとする研究もあります。
また研究の多くはスキーやランニング、ボート競技を扱うものが多く、サイクリングに特化したものは限られています。
これまでのところ、限られた期間内での研究であったり検証人数の少なさからサイクリストに還元できる結論を引き出すことは難しいのが現状です。
このような現状にも関わらずポラライズドトレーニングは効果的であるとされていますが、全ての人にとってポラライズドトレーニングがベストなのかには疑問が残ります。
2015年のレビュー論文では、ポラライズドトレーニングの強度分配はシーズンのある期間においてエリートアスリートにとっては有効な戦略であると結論づけられています。
しかし、こう続きます。「総じて“適切な”トレーニング強度分配は一律に定義はできない。さらなる前向き調査のランダム化比較試験による研究が必要だろう」。
計画的なピリオダイゼーションが大切
以上のように、現状ではまだどのような強度分配が常に良い結果をもたらすのかは分かっていません。
科学的に見ても、現実への応用を考えると強度をミックスした(ピラミッドトレーニングのような)アプローチがより効果的でしょう。
ここでポラライズドトレーニングから少し離れて、ピリオダイゼーションについてご説明します。
ピリオダイゼーションはシーズンを通じてトレーニング強度の分配を調節し、目標到達の可能性を高める戦略的なアプローチです。
たとえばリニアピリオダイゼーションでは、始め低強度で長時間のトレーニングに重点を置き、目標とする大会が近づくにつれ徐々に強度を高めながらトレーニング時間を短くしていきます。
このアプローチではシーズン序盤でフィジカルの土台を作って、徐々にトレーニング時間(量)を減らすことで疲労を軽減しながら特定の能力は維持します。
このようにトレーニング効果を最大限にするためには、1シーズンや1年、もしくはそれよりも長いピリオダイゼーション戦略に則ったトレーニングプランが必要です。
その中にポラライズドトレーニングが戦略的に配置される、といった俯瞰した視点でポラライズドトレーニングを捉えると良いでしょう。
ポラライズドトレーニングはどのような人向けなのか?
ポラライズドトレーニングは新しいトレーニングプランを試してみたいと考えている方にとって良いオプションです。
科学的な調査ではどのようなアスリートにとってポラライズドトレーニングがベストかはまだ明らかになっていません。
しかしどのようなトレーニングプランを行うにしても、トレーニングの成功には一貫性とモチベーションが強く影響します。
あなたにとってベストなトレーニングプランは、あなたが一貫してモチベーションを高く行えるものです。
ですのでポラライズドトレーニングを試すことにモチベーションがあれば、それは良い選択になり得ます。
ポラライズドトレーニングによるトレーニングプランの一例
最後にポラライズドトレーニングの一例を挙げてみます。
このプランでは3ゾーンモデルを用いて80/20の割合で低強度/高強度が組まれています。
強度の割合は実際に何分間そのゾーンで走ったかを元に計算されています。
<週間トレーニングの一例>
月曜日:休息
火曜日:112%FTP 2min – リカバリー 3min ×9セット(1h)
水曜日:エンデュランス(1.5h)
木曜日:エンデュランス(1h)
金曜日:100%FTP 16min ×4セット(2h)
土曜日:リカバリー(1h)
日曜日:エンデュランス(3h)
いかがでしょうか?
ポラライズドトレーニングは比較的最近広まった手法で、まだまだ研究も進展段階であることが伺えましたね。
私もポラライズドトレーニングの論文を読む中で、研究内容がやや限定的に感じる部分がありましたので、その辺りについて以下の論文レビューでご説明してみました。
こちらも是非読んでみてくださいね。
ちなみに私は今年の富士ヒル前の6週間ほど、ポラライズドトレーニングを試してみました。
始めて行ったものでしたし、反省点もあるので一概に良い/悪いは言えませんが、結果だけを見ると昨年よりも記録は落ちてしまいました。
その辺りもまた記事にしてまとめてみたいと思います。
今回も最後までお読みくださりありがとうございました!