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遠い山なみの光 / カズオ・イシグロ著 ; 小野寺健訳
(2017-12-31 Soka Book Waveより)
始終薄暗い印象を受けた一冊であった。
登場人物の佐知子は、現在の旦那と悠々自適に生きるがゆえに自己中心的な態度をとってしまい、彼女の娘である万里子の欲望を軽視していた。
そんな親子間の感情のすれ違いを、淡白な会話で表現されていて非常に面白かった。また、佐知子の友人である悦子が、自身の過去の経験から馳せる思いを、佐知子の生き様と照らし合わせ回想している部分にも趣がある。
筆者は、人間は互いに分かち合えるものだということを前提にするも、内心個々の葛藤や苦悩に打ちのめされ、人は互いの存在を認め合って生きていくには難しい生き物である、ということを遠回しに表しているのではないかと思えた。
人間の本音と建て前を見事に表現している一冊であり、また読み返してみたいと思う。