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外山雄三さん、飯守泰次郎さんを偲んで~コンサートマスターに聞く~〈後編〉

前号に引き続き、2023 年に亡くなった外山雄三と飯守泰次郎、二人の巨匠指揮者の右腕となってきたコンサートマスターに、マエストロたちの音楽づくりの秘密の一端と、後世に引き継いでいくべきものを語ってもらった。

前号はこちら▼

外山 雄三先生 ~森下 幸路さんに聞く~

 外山雄三先生を言葉で表すとすると、「はしゃがない」「洒落ない」です。先生はとにかく余計なことをしません。指揮は細かくは振りませんが、妥協は一切なく、迷いや逃げるようなこともなく、全てを掌握していました。呼吸の大きさが生み出すクライマックスの響きには、もう震える思いでした。
 そして演奏会が終わった後は、教会や大聖堂から出てきたような気持ちになったものです。いかなるときも小細工をせず、徹底的にクセを排除して、楽譜に書いてある通りにやることで、音楽の本質、核心に触れられたという感覚です。

 協奏曲での共演は何度かあります。特に、最近CD化もされましたが、2018年と19年に外山先生の2つのヴァイオリン協奏曲のソリストを務めることができたのは、光栄という以上の気持ちでした。作曲家の指揮という貴重な機会で、何かあればすぐに指摘されるだろうと思っていたのですが、特別に何か言われることはありませんでした。先生は自作に対しての指示はあまりなかったのですが、これも「楽譜に書いてある通りに」ということだったのでしょう。終演後、先生からかけていただいた「ありがとう」は、本当に特別な一言でした。
 外山先生の作品は、もっと演奏されるべきです。彼の作品には大陸的な広大さ、そこに日本のメロディもあって、豊かです。先生は“豊か”という言葉が好きでしたが、作品も本当に豊かな音楽だと思います。

 2023 年5月に倒れられた後、6月終わりくらいに一旦退院されて、電話で話したときには以前と全く変わりがありませんでした。しかし、7月には亡くなられてしまった。もう少しご一緒できると思っていましたが、本当に残念なことでした。
 音楽は時空を超えると言われます。先生は作曲家だから、作品の譜面が残ります。かつ演奏家としての多くのアドバイスは私の頭の中にあって、いまも先生だったらこう仰るだろうな、という言葉が浮かんできます。私たち日本のオーケストラが、外山先生の思いを次の世代に繋いでいきたいと思います。

飯守 泰次郎先生 ~戸澤 哲夫さんに聞く~

 飯守泰次郎先生の独特の指揮ぶりですが、様々な思いや考えを乗せた結果、あのような動きになっていったと思います。わかりやすく振って安心した状態で出てくる音と、先生が求めていた音は、全く違ったのでしょう。もし指揮がわかりにくく見えたとしても、先生の求めている音楽がはっきりと感じられ、結果として、どのオーケストラを振っても良い音が鳴っていたのは間違いありません。
 先生はとにかく“音楽の塊” でした。自分の考えを音楽に当てはめるのではなく、常に音楽から何かを考えていきます。そして信念を貫き、妥協せず、でも常に楽しむ。仕事を楽しめるかどうかは、本人がどう向き合っているか次第です。そこに皆が共感して、先生の世界を作り上げようと取り組んできました。あれだけ音楽そのもので人を巻きこめるエネルギーのある人は、マエストロと呼ばれる人の中でもなかなかいないと思います。

 飯守先生との共演は、とくに晩年の時期は一期一会の凄まじい演奏ばかりでした。現在も東京シティ・フィルが良い演奏ができているとすれば、ベースにあるのは先生の培ってきたものです。
 先生との最後のコンサートは、2023年4月の2回のブルックナーでした。その翌月、私はベートーヴェン室内楽シリーズ公演を開催して、配信もしていたのですが、意外にも先生がご覧になっていたそうで、「いつもありがとう」という伝言と共にワインを送って下さいました。それが先生からの最後の言葉になったわけですが、ご親族によると、先生が最後に聴いた演奏会がその配信だったそうで、やはり何か運命的な繋がりがあったのかなと感じています。
 未だに亡くなられたとは信じられないところがあります。先生から頂いたものがあまりに巨大で、それが無くなってしまったことが、自分にもオーケストラにもボディブローのように効いてきているところです。しかし、今度は私たちが伝える立場にならないといけません。これは使命ですね。音楽というのは常に人間と結びついている、そういうことを伝えていきたいと思います。

©K.Miura


インタビュアー:林 昌英 (音楽ライター)

2024年11月30日発行
「日本オーケストラ連盟ニュース vol.115 40 ORCHESTRAS」より


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