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【Interview】アジアで活躍する仲間たち~シンガポール交響楽団~

シンガポールは1965年建国、AOW2024でホストを務めた京響は1956年創立。京響の方が年上というくらい若い国のシンガポール響(1979年創立)は、ドリアンの愛称でプレゼンス最強のエスプラネードを本拠に、20もの国より音楽家が集い、成長しています。日本からはどんなきっかけでシンガポール響の仲間になったのか、3名の楽員に尋ねました。

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プロフィール

シンガポール交響楽団(SSO)に入団したきっかけ

久留さん:京都出身で東京の桐朋学園附属の高校に進学しました。ニューヨークのジュリアード音楽院に通い、大学卒業と同時に紹介でシンガポール交響楽団のオーディションを受けて入団しました。

夏目さん:出身は大阪で大学では経済学部でした。ずっと趣味として楽器をやっていましたが、周りが就活を意識する時期に自分が会社員になるビジョンが見えず、もう一度音楽大学で学ぼうと思いました。ただその前にお金が必要だったので地元の地方銀行で1年間働き、もう無理!と実感して、良いなと思った先生がいるチューリッヒ芸術大学に入りました。チューバはポジション自体が少なく、27歳までに就職できなかったら日本に帰って音楽と関係のない仕事をしようと思っていましたが、ちょうど良いタイミングに住みやすそうなシンガポールでオーディションがありました。

劉さん:夏目さんと同じでポジションがあまりないので、「オーディションに受かったところが就職場所だ!」というつもりで色々受けて、やっと九州交響楽団(九響)に受かりました。
九響はアジアに近く、「アジアフレンドリーコンサート」というアジアからオーケストラや楽員を招いて行われていた公演がありました。そこに参加していたSSOファゴットの今の主人と知り合いまして、AOW大阪公演にSSOが招かれたときに再会したりして、2006年にシンガポールへ移り、エキストラとして参加しつつオーディションを受け2007年に入団しました。

シンガポール交響楽団はどんなオーケストラ?

久留さん:年齢の幅が広いにもかかわらず、友達のように接してくださるので馴染みやすいです。

夏目さん:メンバーが多国籍なので決まったスタイルがない印象です。

劉さん:国際色豊かであるところから来ている寛容さがあり、日本とはまた違った優しさがあります。日本では「オーケストラはこういうものだ」というこだわりが強く、その一体感が日本の個性や魅力でもありますが、SSOはなんでも受け入れる雰囲気があります。分かり合えないのも良さと言いますか…。

久留さん:元々分かり合えないという前提で1 つのものを作り上げようとしていて。みんな違うところから来ているけれど、国を代表するという意識は一致しているところが面白いです。

―事務局と楽団員の関係はどんな雰囲気ですか?
劉さん:コミュニケーションをすごく頑張っていて、楽団員と事務局で1 つのカンパニーとして結束しています。「One SSG(Singapore Symphony Group)」といってコーラスやナショナルユースオーケストラも1つのグループで一緒に頑張りましょうと言われています。意見交換会があり事務局と楽団員でどう連携して発展していけるかをよく話し合っています。

夏目さん:些細なことでも言えば改善してくれますね。社長にも話がしやすくて風通しがとても良いです。

劉さん:日本人はみんながいる場で要望は言いにくいですが、シンガポールの人は些細なことでもたくさん時間をとって話し合います。

―日本では事務局は「伝達」、楽団員は「要望」のイメージがあります。
劉さん:日本のオーケストラほど事務局が裏方という意識はないです。事務局はサポートというより、会社内で仕事が違うだけの同じ社員というイメージで、事務局と楽団員の間に上下はないと思います。ステージ上の椅子も楽団員同士でコミュニケーションを取って調整します。

夏目さん:ステージスタッフへのコミュニケーションの仕方も意見交換会で議題に上がります。

劉さん:お互いをリスペクトしましょうという意識がありますよね。

シンガポール交響楽団の取り組み

―SSOは教育に力を入れているイメージがあります。
劉さん:0歳からのベビーコンサートという取り組みがあります。各セクションがカラフルなT シャツを着て楽器紹介をしたり、子供たちを座らせておかず、「マーチング!」と呼びかけてぐるぐる歩いてもらったり、手足を動かしてもらったりしています。指揮者が観客の間を回ることも。1年間に4公演ほど行います。

久留さん:ベビーコンサートとは別に、チルドレンコンサートもあります。毎年テーマを変えて物語を読みながら音楽と一緒に聴いていただく取り組みで、1年に2公演くらいあります。他には、定期公演に学生を招待しているのですが、コンサートの1週間前に楽団員が数人学校へ行ってイントロダクションを行います。楽団としては、クラシック音楽に普段触れていない子にどうアタックしていくのかを考えています。まずは楽曲の抜粋を聴いてもらって、この曲の背景にあるストーリーを劇にしてみるなど、ただ紹介になるのではなく、想像力を働かせてもらうような取り組みです。できるだけクラシックを身近に感じてもらえるようにしています。

劉さん:子どもだけでなく、地域の人のためにも無料の野外コンサートを年に何回か行っています。ボタニックガーデンのコンサートではお客さんが芝生の上にピクニックのように来て、ワインを飲んでいる人もいます(笑)。また、学校の中にコンサートホールがあるので地域の人に無料で聴いていただけるコンサートを行っています。

これからアジアのオーケストラに挑戦するみなさんへ

久留さん:他の国のオーケストラに挑戦しない理由があるとすれば言語でしょうか。

夏目さん:僕は文化的に過ごしやすいかどうかを考えました。海外旅行に行ってみて、いいなと思った場所があればその土地のオーケストラに就職するのはありかなと思います。

劉さん:オーケストラはもともと西洋音楽なので、なぜアジアで勉強するのかと思う人もいるかもしれませんが、オーケストラに入りたいと思ったときにオーディションがあるのであれば、場所を問わず受けるのが良いと思います。

久留さん:そうですよね。自分が就職したいタイミングで空きがあるかどうか。日本の方にSSO をもっと知ってもらえたら、これからのみなさんの選択肢の中に入るかもしれないですよね。

夏目さん:今もSSO でオーディションがあると日本の方が受けに来たりしますよね。今回は良い機会をいただけたと思っています。シンガポールのオーケストラで働いていると日本人に言うと、ピンと来ていない反応が返ってくるので、日本のみなさんの前で演奏する機会をいただけたことも光栄ですし、AOWは初の京都開催ということでしたが、これから色んな場所でアジアのオーケストラが紹介される機会が長く続いたら良いなと思います。

2024年11月30日発行
「日本オーケストラ連盟ニュース vol.115 40 ORCHESTRAS」より


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