見出し画像

おじいさんと一緒に、古いお墓さんの字を必死で読み取って思ったこと。

ボクは香川県の庵治産地でお墓を作る仕事をしています。地元で採れる「庵治石」を使って、地元のそれぞれの工程の専門の職人と一緒に、心を入れてお墓さんを作っています。石が採れる大丁場、麓に職人の工場が集まっている庵治産地、本当に素敵な場所です。よかったら、ぜひ遊びにきてくださいね。

うちの仕事は、全国各地の石屋さんからのご注文での仕事がほとんどですが、時々、親方の旧くからの知り合いの方など、直接仕事を頼まれることがあります。時々だけどこうしてご縁がつながって、実際に手を合わせていただく方の顔を見れる仕事はあまりないのですが、最も温度が感じられる仕事なので、とにかく心を入れてがんばりたいと思っています。

古いお墓を1つにまとめたい…というおじいさんの思い

そんな仕事の1つで、親方の昔からの知り合いの方から「たくさんの古いお墓を1つにまとめたい。」というご依頼をいただいたことがありました。事前の情報で、たくさんのお墓がある…とは聞いていたのですが、実際に現場に行ってみると、10基を超えるご先祖さんの古いお墓さんがありました。

依頼主のおじいさんは、古いお墓をまとめて1つのお墓にする時に、すべてのご先祖様のお名前を1つの霊標にまとめたい…というお気持ちがあって、すべてのお墓さんに刻まれた文字を読み取ることになりました。だけど、古い物だと江戸時代のものもあり、今は使っていない漢字だったり、形が崩れてしまって、文字が分からなくなってしまっていたりして、どう書いてあるのかがなかなか読み取れないものもありました。

依頼主のおじいさんと一緒に、ああでもない…こうでもない…と試行錯誤しながら、文字を書き出してみました。どうしても読み取れないものや、分かりにくい文字は、文字彫専門の職人に古い漢字を調べてもらったり、創作したもので文字を作ってもらったりしました。最終的には、残っていたお墓さんの文字を全て文字に起こし、1つの霊標にまとめることができました。おじいさんも納得の仕上がりでした。

「自分がご先祖さまだったらどう思うか?」を想像してみた。

このおじいさんがやってくださったこと、本当に大変な作業でした。このおじいさんとのやりとりを振り返って、もしボクがこのおじいさんのご先祖様だったとしたらどう思うだろう…と考えました。みなさんがご先祖さまだったらどんな風に思うでしょうか?

あくまでも想像だけど、ボクがご先祖さまだったら「そこまでしてくれなくてもいいのに…。」って思うだろうけど、間違いなくうれしいし、その気持ちに泣いてしまうだろう…と思うのです。10基以上あったので、おじいさんは少なくとも10人以上のご先祖さまに喜んでいただいた…ってことは間違いないと思います。

100年以上も残っていたからこそできたこと。

おじいさんと一緒に古いお墓さんの文字を必死で読んでみて、改めて感じたことがありました。それは、今回、これが外で置いてても朽ちないお墓さんだったから、100年以上も前のものが残っていた…ということ。家の中で紙に書いてあったものだとしたら、もしかしたらこんな風には残っていないかも知れないな…と思いました。

おじいさんにこのあたりのことを伺うと、ご先祖様の記録が残っているところはなくて、手がかりはお墓さんに彫ってあった戒名だけ…ということでした。戒名だけだから、どんな人だったかとか、本当のお名前とかは分からないんだけれど、確かにそこにご先祖様が生きておられたってことはこれまでも残ってきたし、おじいさんのおかげで、新しいお墓さんのところにこれからずっと残ることになります。繰り返しになりますが、もしも自分がそのご先祖様だったら、間違いなくうれしいし、泣いてしまうだろう…と思います。うちの子孫はこんな素敵…って知り合いに話してしまうかも知れません。それくらいうれしいと思います。

今回の古いお墓さんには、江戸時代のものもありました。おそらく、今回ご依頼いただいたおじいさんの10〜20代前のご先祖様。おじいさんみたいな子孫が現れれば、自分の10〜20代先の子孫が自分を思ってくれるいことがあるかも知れないんだな…って感じました。このおじいさんがやってくださったことから、自分のご先祖様のことや、今自分が生きていること、子どもたちやこれからの子孫のことについて、いろいろ考えることができました。

おじいさんの「お墓をまとめたい!」というご依頼に関わらせていただけて、本当に光栄でした。そして、一緒に古い文字を一生懸命読み取ることを必死でやらせていただきながら感じたことを大切に、これからも子どもたちと一緒にお参りを続けていこうと思います。

庵治石細目「松原等石材店」3代目・森重裕二





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?