鬼の子 感想
ながしまひろみさんのマンガ『鬼の子』に出てくるオニくんは、たまらなくかわいい。
すなおで、やさしくて、がんばり屋の鬼の子。
そんな子がある日突然現れて、中学生のみのると一緒に暮らし始める。
ドラえもんがいたらなぁと思うみたいに夢のような始まりだけど、そこから始まるストーリーはとても現実的だ。
私が好きなシーンの1つ、
オニくんが落ち込んだ次の日、
元気を出すぞ!とばくばく朝ごはんを食べる。
するとお母さんが
“それだけ食べたらもう大丈夫“
“大丈夫だからね“
と言ってくれる。
理屈なんか抜きで、近しい誰かに言ってもらう「大丈夫!」に心強く救われて、自分に勢いをつける。
こんなこと、私にもあったなぁ、なんて思いながらオニくんを応援する。
うまく言葉にならないけど、思い出すとなんだか涙が出ちゃうような「こんな気持ちになったことあるな」の連続で、心を揺らされる。
みどりちゃんという子がオニくんと、学校の帰り道で話すシーンがある。
『うちのおかあさんもね すごくやさしいの
わたしも そうなりたいけど 』
と言ったみどりちゃんに、オニくんは
『どうして?みどりちゃんはやさしいよ』
と答える。
会話はそこで終わるけど、みどりちゃんは心の中で思う。
“ ちがうの わたし ほんとはやさしくないの“
この言葉を読んでなんだかドキッとした。
「いい人だね」と褒めてもらった時、
いや、全然そんなんじゃないんだよ、と
「そんなんじゃない」説明は口に出して言えないけど、自分の内側に幅を利かせている欲や、
意地悪でいやらしい考えや、過去を思う。
謙遜じゃないんだよ、
私、それやってる時、自分の利益を考えてた。
見えないとこで、意地悪したことあるよ。
人の失敗話聞いて、ざまあみろって思う事だってあるんだ。
だから、いい人なんかじゃないんだよ。
内側で思ってる事と、人から見える態度の差で、そんな風に思ってしまう。
オニくんは「(みどりちゃん)なんであんなこといったんだろ」と考え、
「こころのなかも わらってるといいな」と思う。
こんなふうに、やわらかく心に留めておくオニくんも、その後の展開もとてもいいのだけれど、ここのシーンが私の中には大きく残った。
そして思い出したセリフがある。
宮部みゆきさんの小説『模倣犯』の中に出てくる有馬義男のセリフ
『自分には何々する資格はないとかさ。自分は何々だと思ってコレコレのことをしてきたけれど、本当はそれは偽りで、自分の心の底にはコレコレしたいシカジカの動機が隠されていたのだから、あれは間違いだったんだ、とかよ』
『また始まった。ホントは、だ。ホントは違ってた。ホントはこうだった。やめなさいよ。あんたがそのとき考えたことが本当なんだよ。本当のあんたは、そのときそのときその場にちゃんといるんだよ』
長いお話の中でもとても印象的なシーンだった。
「本当の自分」とは何か、なんて考え出したら
難しくて旅に出てしまいそうだけど、このセリフを読んだ時、そうだよ、やったこと全部、思った事全部本当だよな、とストンと思えた。
大抜擢されてその場に立っていても、仕事だからと思ってやっている事も、ついポロッと喋ったことも、誰かを前にしながら黙って心で思っていることも、全部本当の私だ。
だから褒めてもらったら、ありがとうと返していいんだ。そう思ってもらえたのは自分の行動なのだから。
こんなに素直で当たり前のことを自分で勝手に考えて苦しんだりしてた。
そしてみどりちゃんみたいに、やさしくない私も外に出したら内側と外側の差がなく、にっこりわらえるかもしれない。
「鬼の子」を繰り返し読むたびに、過去の気持ちを思い出す。
さみしかった、悲しかったことが出てきても、本の中でやさしくすくってくれているから、明るく読み終わることができる。
かわいいオニくんをまだ見たい。
うっかり訪ねてこないかなぁ。