ジョブ型雇用はやわかり(1~3章)

定期的にブームになる「ジョブ型雇用」について、基本的な仕組みやメリット・デメリットはもちろん、本質である「経営戦略の観点」をぶらさずに、解説されています。平易に語られているだけでなく、金融、IT、メーカー、ベンチャーとあらゆる業種の企業事例を載せているため、人事初学者はもちろん、会社員として働いているすべての方におすすめできる良書でした。

目次

第1章ジョブ型雇用とは何か
第2章ジョブ型雇用の基本形
第3章経営戦略とのかかわり
第4章導入にあたってのポイント
第5章ジョブ型雇用がもたらすもの
第6章競争力強化のためになすべきこと

第1章

ジョブ型雇用は、メンバーシップ型と対になる概念で、「仕事に人がつく」仕組みのため、仕事の定義が明確です。それに伴い、組織の構成員の流動性が高いことが前提となり、外部競争力を重視します。一方で、日本型雇用は基本的に「就社」で定年まで同一企業に所属することが前提なので、内部公平性を重視しています。

安定的な経営環境であれば、先輩から後輩へと知恵や技術が引き継がれ、同質性の高い人材がそろうことは強みですが、昨今の経営環境はめまぐるしい変化に柔軟かつ俊敏に対応できるジョブ型雇用が適していると考えられています。

1990年代の成果主義ブーム、2000年代後半のグローバルグレードブームを経て、現在は、少子高齢化やIT化などのメガトレンドを受けたこともあり、雇用システム全体の変革に焦点が当てられ、第3次ジョブ型雇用ブームとなっています。

第2章

ジョブ型雇用の基本として、「ジョブの明確化」があります。しかし、単にJDを作成すればよいという話ではなく(外資系企業であろうと、簡易なJDしかない場合もある)、メカニズムを機能させる要点をつかむことさえできていればOKです。

最重要なポイントとして「会社と個人の合意形成」があります。職種別の採用や異動施策がメインになることにより、個人はジョブの難易度や報酬制、将来性を考え、自らの意思で専門能力を磨き挑戦するようになります。また、パフォーマンス次第では、業務改善プログラム(PIP)や退職勧奨が発生することも、個人でのスキルアップを行う動機となります。つまり、双方が合意してジョブを決めることが、ジョブ型雇用を機能させる第一ステップになるのです。

また、先に述べた通り外部競争市場を強く意識したジョブ型雇用は、市場メカニズムが働くため報酬がメンバーシップ型雇用に比べ高いことも特徴です。このことが、昨今の新卒採用の企業ランキングで外資系コンサルティング会社が軒並みランクインすることや、グローバル企業との人材獲得競争に負けることにつながっています。さらに、メンバーシップ型雇用では内部公平性を重視するため報酬の決定権が人事部門にあることも、報酬を押し下げている原因の1つです。

ジョブ型雇用では、現場のマネージャーに採用計画や、そのコスト、部下の昇給や賞与に関する決定権を強く持つ代わりに、組織としての成果を明確化することが求められます。期末の成果をもとに、翌年の人件費の交渉を行っていくため、マネージャーの成果の可能性と人件費総額のバランス、組織の維持・成長への意識は高まります。また、組織の成果と個人の成果に応じて報酬が決定されるため、評価は報酬決定というより、組織・個人を強くするための人材開発のための側面が強くなります。とはいえ、報酬決定の権限もマネージャーがもっているため、報酬への不満感を人事のせいにすることはできず、部下との対話はより重視されます。総じて、ジョブ型雇用を取り入れている企業のマネージャーのほうが組織に対する義務と責任が大きくなるため、環境の変化等に機敏に対応する意識や組織へのコミットメントが強化されます。(人材の流動性が高くなりそう!と安易に考えてはなりません!)

また、キャリア自律や事業別・職種別採用が進むと、同期や先輩・後輩という関係性が意味をなさず、リーダーの早期育成を阻むコミュニティ内の嫉妬等も薄れます。このことにより、従来メンバーシップ型雇用では長期間の選抜によりモチベーション低下を懸念されていたハイパフォーマーへの機会提供が実現します。

第3章

先に述べた通り、経営者の観点からみるとメンバーシップ型雇用は「安定した環境」に強く、ジョブ型雇用は「変化のある環境」に強い仕組みです。

メンバーシップ型雇用は、同質性の高い人的資源により、一定のプロセスの反復・徹底・習熟には強い一方、企業の急激な拡大期には社員の再生産が追い付かず、競争環境の変化に対応するアジリティを欠きます。同質性が高いゆえに、外部人材に対する抵抗が強いことも難点です。(昨今のデジタル人材の受け入れの苦慮などもここに起因します。)

一方でジョブ型雇用では、随時更新される戦略や方針に合わせて組織やジョブをデザインしたうえで人的資源を調達・活用できるため、変化に柔軟に対応することができます。もちろん欠点もあり、メンバーシップ型雇用のような阿吽の呼吸は容易ではありません。また、優秀人材のリテンションのため、人件費が高くなることも経営者目線ではデメリットでしょう。

とはいえ、グローバル化による市場の拡大・多様化、デジタル化による産業の枠組みの変容が前提の現状において、同質性の高い人的資源を集中的に抱えることはリスクが高い経営判断だといえます。

特に、ジョブ型雇用に対して緊急性が高い企業群は、下記のような特徴を持った企業です。

・デジタル化の進展により過去の競争変数が変わろうとしている
・既存事業に成長の壁を感じており新たな事業を創造していくことが求められる
・人口構成の構造的な変化に組織・人事をうまく適合させていくことが求められている

そして、話は一気に戦略を実現するための組織デザインの話へと転換しますが、ポイントとなる点は3つ。

・戦略を実現するために必要な組織ケイパビリティをイメージする
・その組織ケイパビリティを身に着けるために必要な人材の質×量を思い浮かべる
・集まった人材が組織として効率的に動けるように、責任・権限を分担し、指揮命令系統を決めること


これらを、まずは経営層が考えた後、それぞれの事業マネージャー単位で繰り返し行うことで、個人単位のジョブへと落とし込まれます。

組織デザイン、つまり要員計画はどの企業でも当たり前のように行っていると思われますが、メンバーシップ型雇用ではその特殊性ゆえに、理想で終わってしまうことも多いようです。その理由は3つあります。

・当事者がいない
・要員計画策定のツール、情報がない
・実効的な打ち手につながらない

当事者がいないという問題に対しては、事業の遂行責任のある現場に人材の責任がなく、事業と連動しないため起こります。


次に、ツール・情報がないという点は、メンバーシップ型雇用のキャリアのゴールが「管理職」のためゼネラルローテーションが行われていることが起因しています。つまり、個人の業務能力や領域ごとの専門スキルや経験が深まりにくいうえ、可視化されていないのです。これを支えるのが「職能」による職員のレベル分けです。このことは、将来の要因構成を検討できないという点でも大きな問題を生みます。「今は拡大フェーズのため営業を増やす」「今後はIT投資を進めて管理部門を強くする」といった戦略が練れないためです。(○○等級の人数を〇倍にといった戦略は不自然)

最後に、実効的な打ち手につながらないという点は、一括採用・長期雇用であるため「量」の調節は難しく、ポテンシャル採用である以上「質」のコントロールもまた困難であるためです。そのため、経営戦略の方向性に合わせて、必要戦略の質×量を先読みし、常に先手を打つ必要があるのですが、そこにも「ジョブ」という概念がどうしても必要になるのです。

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