袖摺れ(そですれ)の距離感【旅する日本語】

 眠い目をこすりながらコーヒーを作り、朝食のパンを片手にニュースを眺める。そんないつも通りの毎日が始まった時。あなたとこんな距離感になるなんて微塵も思わなかった。

 あまりの急展開に離れたい、距離をとりたいと思う心とは裏腹に、1ミリの隙間もなく体は密着する。皮膚という薄い一枚のまくを通して、あなたの体温を、湿り気を――そしてその鼓動すらも感じる。トクン、トクンと早鐘のように鳴り響くその音が、あなたの心を映しているようで、共鳴するように私の心拍もあがっていく。

 あの日、あの時、あの場所で……なんて歌があるけれど、運命は思ったよりも気まぐれで残酷なのかもしれない。いい匂いのする、さわやかなイケメンがよかった……こんな知らないおじさんじゃなくて。それならこの時間も苦痛の時間じゃなくなるのに。

 今日の乗車率は250%に達しているらしい。 
 東京駅に到着するまでは、まだ20分。満員電車はひた走る。

「欲しいものリスト」に眠っている本を買いたいです!(*´ω`*)