北村みなみ先生が描くキュートでシビアな未来の姿『グッバイ・ハロー・ワールド』【このマンガを読んで7月】
いつのまにか未来は窮屈になった。
そう感じている人も結構いるんじゃないでしょうか。百年前の方が自由で豊かな発想で未来を思い描くことができたのに、フタを開けて見れば、車も空を飛ばないし、タイムマシンもできてない。これから先の未来もきっとつまらない。
『グッバイ・ハロー・ワールド』は、そんな暗い展望を描いているあなたにこそ読んでほしいSFマンガなのです。
ちなみに『グッバイ・ハロー・ワールド』は、アルの方でも記事にしてもらったんですけど、それだけでは収まりきらなかったんですよ、愛が(笑
そんなわけであふれてしまったわたしの愛を見ていただければと思います。アルの記事はこちら。
じゃ、行きましょう!
【1】実現可能な技術から想起された9作のSF短編集
『グッバイ・ハロー・ワールド』はフリーのアニメーション作家・イラストレーターとして活躍されている北原みなみ先生の初単行本となるSF短編集です。
連載もとは「WIRED」という雑誌でして。うたい文句は「世界で最も影響力のあるテクノロジーメディア」なんですよ。テクノロジーメディアですよ。「科学技術」の「媒体」ですよ。
そんな権威のある雑誌で「SFマンガ」が連載するってことのハードルの高さたるや。想像するだけで背筋凍りませんか。そして、それを形にしている本作が、高い水準で作られていないわけがないのです。
実際に、本作に収録されている作品は、実現可能な技術をもとに想起されており、「移動しなくなった人類」「環境汚染の中で生まれた新人類」など、数十年先には十二分におこりえる、そんな現実的な未来の姿なのです。
そのうえ、マンガだけでなく識者によるコラムも多数掲載されていてそのリアリティを担保しています。
ここまでくると、もはや単なるSFマンガと言っていいレベルではないと思います。そうですね、いうなればこれは「未来のドキュメンタリー」です。未来の事実を描いている、そんな学術書のひとつといっていいでしょう。
【2】デザインがかわいい!
わたし田舎ものなんでマンガは基本的に電子書籍派です。ただ手元にとっておきたいような……、本棚に置いておきたいようなマンガは紙で買おうと決めています。
『グッバイ・ハロー・ワールド』に関しては正直最初から紙で欲しかったんですよ。だってどう考えてコレクター魂を刺激されそうな作りしてると思いませんかこれ。見てくださいよ。
これ途中にちょっと出てくる黄色い部分、ページサイズ違うんですよね。
電子書籍だと全部一緒のサイズで、電子書籍が悪いわけではないにしても、せっかく紙で作りこまれたデザインが無になってしまっていることには悲しさを感じざるをえません。
さて、この段階ではまだまだそんな違いはまったく知らないわたしはやみくもに近場の本屋に行ってみるわけです。しかし在庫がない。まぁあわてないあわてない。そう簡単に手に入らないことは織りこみずみです。
そのあと近隣の本屋に片端からぜんぶ電話をしましてね。いや、それはちょっと誇張が入っていますが、少なくとも近場の本屋数件には電話したり、訪問したりして確認したんです。
――で、結果どこも在庫なし。
そもそも入荷していない。がってむ田舎!
まあまだ評価が確定したわけじゃない……と思いながら、しぶしぶと電子書籍で購入しました。
そして読み進めるうちに思うわけです。
ああこれは好みだ。好きだ。大好きだぞ、と。
さきほど書いたように、中身に関しては技術に裏付けられた、どこまでもハードなSFです。でも出てくるキャラクターや背景は、とてもやわらかく、丸みをおびたとてもかわいらしいデザインなのです。
いや、かわいい……というのも間違いじゃありませんが、それ以上に非常にデザインとして洗練されていると思います。二色刷りの紙面が、もうそれ一枚だけで絵になるんです。どのページをとっても素敵でして、額にいれて飾りたい衝動にかられます。
……となれば、やはり紙での現物が見たくなってきて、ウズウズするわけです。しかしわたしはもう電子版を買った身の上。くわえて紙の本まで買うなんて、石油王には許されてもお天道様がゆるしません。
なにせこのマンガ、最初にはったリンクにありますが1冊2000円もする高価本。おいそれと、「じゃ保存用観賞用で……」とはならないわけですよ。
しかしとりあえず一度現物は見たい。現物を見て、この気持ちに終止符を打ちたい。そんな思いでここ数週間さまよっておりましたが、先日、無事現物を確認。
そして――無事確保(笑
結局、その作品としてのデザイン性の高さに負けました。いや買う前から負けていたと言ってもいいでしょう。達人は刀を抜く前からもう相手を切りすてているといいますが、まさにそれです。その切れ味は時間も場所も、金額さえも凌駕するのです。
それだけ魅力的であったということだと思っていただければ幸いです。
【3】その他の活動も活発
もともとの肩書は「フリーのアニメーション作家・イラストレーター」ということで、漫画家さんではないんですよね。だからこそのあのデザイン性と思うと納得です。
いや、納得を通り越して、その活動の隅々にまでそそがれた独自のエッセンスに打ちのめされたという方が近いでしょう。HPもありまして、これがもうすでにカワイイがあふれています。
そして先生は様々な場所で活動しております。
●NARRATIVE LAB(ナラティブ・ラボ)
「アーキタイプが主宰する企業の垣根を越えた創発型のコミュニティー・プロジェクト」ということで、横文字でいまいち存在がよくわからないのですが、とがったものの発信サイトという感じでしょうか。
このサイトの第1弾として北原みなみ先生のマンガが読めます。ここまで読んで中身が気になった方はぜひこちらのサイトを見てください。抜群にデザインが近未来で、行くだけでテンションがあがります。
テーマは「COVID-19に対応した新しい行動原理に関するコミュニティーメンバーとの議論から生まれたSFコミック」。『グッバイ・ハロー・ワールド』とも親和性の高い近未来SFです。
だからこれが刺さった人は『グッバイ・ハロー・ワールド』もぜひどうぞ(回しもの
●パラレル百景
短歌・笹公人 × 絵・北村みなみ先生によるふんわり並行世界の冒険。要するに「短歌×1枚絵」という組み合わせ。これがまたいい。
この『パラレル百景』というアカウントで流れているので、みなさまもぜひ。
SFというほどハードではないけれど、必ずしも現実ではない、”ふんわり並行世界”という世界観を表現するうえで、この絵のタッチが大変マッチしているんですよね。いやー素敵。だいたい毎月最終金曜日に新作を配信です!
●『宇宙(ユニヴァース)北村みなみ作品集』
そんな北原みなみ先生は作品集が出たばかり! ”宇宙”とあるように、スペーシーで近未来で、でもかわいい。うん、この方向性自体がすでに好きなんだな。
これまでに描かれたさまざまな作品に加えて、描きおろしも多数収録。こちらもファンアイテムとしては間違いのない逸品です。
まだまだあります!
・クリオネ・ジャム
そして音楽にまつわる活動も。
NHKみんなのうたの曲「ぼくはヒーロー」の映像なども手掛けていますし、音楽やそのアニメーションも手札のうちです。
動画はクリオネ・ジャム MV 「warp」VOCALOID Version "初音ミク"。初音ミクじゃなくて人が歌っているものもあります。とっても耳に残る曲で、キャッチーで明るいので、わたしも何気なく口ずさんでしまったり。
そして第二弾のミュージックビデオは2021年7月29日に出たばかり! 出来立てほやほやです。見て! 聞いて! 私の大好きな「落ちサビ」もあります。
曲もいいしアニメーションもいい。ほんとうに達者ですよね。
【4】まとめ
というわけで、『グッバイ・ハロー・ワールド』のレビューというよりは単に北村みなみ先生へのファンレターみたいな感じになりましたね。まあ、こうなってしまうことがわかっていたからnoteでも書いたようなもんなんですけど。
『グッバイ・ハロー・ワールド』が連載されていた「WIRED」では北村みなみ先生のインタビューも掲載されています。ここまで読んで興味をもっていただいた方はこちらもどうぞ。
マンガ好きとしては、これからマンガも量産していただけると嬉しい限りです。先生の今後の活躍にも期待しております。
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