思い出の正解は『広縁』
「ねえ、この場所ってなんていうか知ってる?」
窓辺の椅子に座り、唐突に切り出した。テーブルを挟んだ向かいの席には夫がいる。すでに日は落ち、外の景色を見ることはできないけれど、響く海鳴りが雄弁に語っている。
「……ここって、この旅館の名前?」
「ううん。今、私たちがいる……この窓際の椅子とテーブルがある、ここの名前」
この質問をするのは初めてじゃない。もう4年前になるけれど、他ならぬこの人と旅行に来たときに、この質問をしたのだ。
「いや知らないな、名前あるんだ。なんていうの?」
首をかしげる夫は、本当に忘れているのだろう。そしてそんな仕草を見て、また私は思い出す。彼のそんな大雑把で、あっけらかんとしたところを好きになったことを。
生暖かい風が、窓から吹き込んでくる。
「んー……そうね。自分で思い出しなさい」
いたずらっぽく笑いながら煙に巻いてみた。
大丈夫よ。正解はちゃんとあなたの思い出にもあるから。
「欲しいものリスト」に眠っている本を買いたいです!(*´ω`*)