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Photo by
ainoaki
ファインダー越しの君と冷たい手
「ケータイなくしたことってある?」
彼女の話はいつも脈絡がない。かすかに鳥たちの鳴き声が聞こえるここは断崖絶壁の一番ふち。またひとつ、波が岩肌に当たって砕けた。
「いや、ないよ。壊したこともない」
「ふーん……あのね、ケータイ無くすのと死んじゃうのって似てると思うの。ほら、ケータイ無くすと意外と自分は困らなかったりするでしょ。あ、わかんないか。意外とこれが困らないのよ」
彼女は片足立ちをしはじめる。僕は慌ててファインダーから目を放し、彼女に手を差し出した。
「困るのは周りだけ。自分は意外と困らない。これって私が死んじゃってもそうなのかなって。ケータイ無くすのと似てるんじゃないかなって。……まあでも私が死んでも、周りもたいして困らないか」
掴んだ手はいつものように冷たい。
「僕は困るよ。君は僕のケータイに登録している唯一の人だから」
「なにそれ。やっぱり困らないじゃない」
小さく笑う彼女はキレイだった。
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