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死ぬまで花火師であるために――初監督作「AVATAR DUEL!!」を作るまで【VRChat】
皆さんこんにちは、こんばんは。
わたしです。安食ねるです。
先日、初監督となる映像作品『AVATAR DUEL!!』をアップし、第3回VRCムービーアワードの短編部門に応募しました。
この記事はわたしの備忘録も兼ね、映像制作について何もわからない素人であるわたしがいかにしてVRC映画を制作するに至ったかを書き記したものになります。
・制作に至る経緯①――VRC映画との出会い
VRCムービーアワードというものを認知する前から、うっすらと「VRC映画、撮ってみたいな」と思っていました。
そのきっかけはあの伝説のイベント『モノガタリ交流会』です。
まず何も知らない無知な獣であるわたしが「VRC映画」という文化を知ったのがモノガタリ交流会の第14回でした。
その回は「ダニカルチャンネル」のダニカル監督と「スタジオバグース」のひめ監督が登壇された回で、ダニカルさんからは『Avatars Life ~こえのゆくえ~』を、ひめさんからは『宇宙船からのSOS!』をご紹介していただきました。
『Avatars Life ~こえのゆくえ~』のテーマの定まったシナリオや卓越したカメラワーク、『宇宙船からのSOS!』のアクション性や独特な演出に触れ、「おおすごい! こんなことがVRChatでできちゃうんだ!」と、その時はただただ驚くばかりでした。
ところが転機となったのはモノガタリ交流会の第19回。
「大宇宙倫理の会」の魂川りんり監督と、カキノキ監督がお越しになった回でした。
魂川りんりさんは『亜京市Vtuber変死事件』を、カキノキさんは『未然探偵』を紹介いただたのですが、驚いたのはお二人とも企画・撮影は(確か)ほぼ独力で行っていたということです。
また、その場には魂川りんりさんの盟友であるドクター・デリートさんも観覧に来ていて、聞けばドクター・デリートさんも魂川りんりさんと同じく自分の腕一つでVRC映画を撮ったのだそう。
ここで眼前に並ぶ3つもの「(ほぼ)一人で映像作品を作り上げた」実績を目にして、わたしはひとつの可能性に思い至ります。
「あれ? わたしもVRC映画、撮れるのでは?」と。
そして「わたしもVRC映画、やってみたい!」とも思いました。
わたしは容易に他者の創作物に影響され、少しでもその創作形態が自分にも実現可能だと思う光を見出せば、その瞬間から即座に「やってみたい」という衝動を抱く獣です。
今までのわたしの創作――小説とか絵もその気持ちひとつでやってきました。きっとこれはわたしの宿痾であり、染みついてしまった生き方なのでしょう。
ですがこの病のおかげで楽しくやってこれたとも思っているので「舐めている」ととられても仕方がないことではありますが、これについてはどうか許していただきたい。
ただ、その時は「やってみたい」という気持ちだけで、具体的なことは何も決まっていませんでした。
あくまで「いつかやるぞ」レベルだったのです。その時は……。
・制作に至る経緯②――第3回VRCMAを知る
状況が変わったのは11月末くらいになってからだったと思います。
偶然、フレンドさんからのTwitterでのリツイートで第3回VRCムービーアワードなるものの存在を知りました。
ただ、わたしはここで迷いました。
ちょうどスタッフとしてお手伝いしていた演劇『言葉売りの少女』も千秋楽を迎え、100%手が空く時期ではありました。
ただ、第3回VRCムービーアワードの存在を知ったのが遅すぎて、締切(1月31日)まで、2か月と少ししかなかったのです。
どうVRChat上でどうやって撮影するかはなんとなくイメージできていますたが、実際に撮影した経験はないため、自分の作ろうとしているものがどれだけの時間が必要になるかまではわからなかったからです。
今から作り始めたところで、締切まで本当に間に合うのか――。
しばらくは、衝動性の獣がいっぱしの理性を持った気になって迷っていたのです。
ただ、その時背中を押してくれたのがわたしのフレンドさんでした。
「手伝えることあったら手伝うから」と言ってくれたことに勇気を貰えて、「うまくいくかわからないけど、やってみよう!」という気持ちになれたのです。
わたしを応援してくれる人がいる。
これほどありがたいことはないな、と思います。
結局、声入れ以外の制作はほとんど自分でやりましたが、いざとなったら頼れる人がいるという安心感は少なからぬ支えになっていました。
実際、作業インスタンスを立てた時に愚痴や苦労を聞いていただいたり、使うアセットに関するアドバイスを頂いたり、細かいところでの演出に協力してもらったりもしました。
確かに直接的な制作はほぼわたし一人でやり切りましたが、間接的には多くの人に支えてもらってできた作品だなとつくづく思います。
・制作について①――企画編
本当に全てが手探りでした。
ですが「映画ってどうやって作るの?」っていうところからじっくりお勉強している暇はありません。
まずはわからないなりに制作計画を立てました。
主要キャラの声優は牛乳帝国くんにお願いすることは決めていたので、アフレコをお願いする期間もある程度取らなければいけないからです。
まずVRCムービーアワードの短編部門に応募することを目標に定めました。そしておおまかに
①案出し⇒②企画書⇒③脚本⇒④絵コンテ⇒⑤撮影⇒⑥編集
の6セクションが存在「するであろう」というある程度の決めつけをしてだいたいの計画を立てます。
あくまでおおまかです。
モノガタリ交流会に行ってVRC映画に触れ「わたしでも作れるのでは?」と思ってしまうような衝動性の獣の姿が本体のわたしです。
計画を立てるのは決して得意ではないので、そこまで綿密には決めませんでした。せいぜい絵コンテや撮影のデッドラインはここまでだな、と線を引くぐらいです。
今だから言えますが、プロジェクトの損切ラインも決めていました。
〇月△日までにここまでできていなかったら、絶対期日までに完成させるのは無理だから傷が浅いうちに制作をやめる、みたいな感じです。
ただ『AVATAR DUEL!!』はわりとすんなり「こんな感じのものを作りたい」というビジョンが固まっていったので、案出しから脚本までのセクションはわりかしスムーズに事が運びました。
今回、意識したのは「選択と集中」です。
やるからには本気でVRCムービーアワードに応募したい。
けれど、映像美や撮影技術では勝負しようがありません。
プロダクション制やスタジオ制を敷き、腕利きの技術者や役者を揃えている組織との差は比ぶべくもありません。
こちらはただの獣一匹です。
ですが、わたしには一つだけ武器になりうる牙がありました。
それは「お話作り」です。
わたしだって小説を書いたりお話作りの勉強をしたりということは、ある程度はしてきました。
もし勝負するならここしかないと思い、自分の強みを生かしつつより多くのVRChatユーザーの心に届くよう、自分なりの戦略を立てて臨みました。
具体的に説明すると長くなってしまうので『AVATAR DUEL!!』制作にあたってわたしが書いた企画書を共有します。
なにぶん時間がない中でまとめたものなので粗はありますが、何を思ってああいう話になったのかはある程度わかると思います。
そういうわけでシナリオが武器ということに定まり、そのシナリオをいかに最小限の違和感で映像作品という形にしていくかが課題となっていきました。
・制作について②――撮影編
ここが尋常でなく辛かったです。
なにせ経験値がゼロなものですから、ひたすら手探りでああでもないこうでもないと悩みながら撮影しなければいけませんでした。
最初の想定では技術的にやれる、と思ったことがツールの仕様でできなかったり、単純に思うような絵が撮れずに涙に暮れたり。
当然撮影も一人でやらないといけないので、一つの画面に二人以上が収まるとなるともう大騒ぎです。
グリーンバックを駆使した多重撮影はもちろんのこと、ツールの都合上グリーンバックが使えない場合はVRCを多重起動してサブアカウントを撮影ワールドに呼び寄せて画面内に立たせる、なんてこともしていました。
その場合、デスクトップモードで入ることになるのでどうしてもキャラが棒立ちになってしまうのも悩みのタネでした。
その点はどうにもならず、今回はやむなく妥協しています。
ここらへんが一人で撮影するということの限界だな、と思います。
また「メタカル最前線」で連載されていた「カデシュ・プロジェクト」代表のだめがね監督の「VRC〈ブイチャ〉で映画を撮る前に…」シリーズは何度も見返しました。手探りでやらなきゃいけない中で一定の指針を与えてくれたので本当に助かりました。
技術面だけでなく、心構えの面でも参考になるので「これからVRCで映像作品を撮るぜ!」という方にはぜひ通読をおすすめします。
あと、カメラ操作等の基本的なところではLein@キノピオproさんの動画シリーズも助けになってくれました。
グリーンバックの使い方や合成の方法などもここで知りました。
・余談①――少なからぬ影響
『AVATAR DUEL!!』の成立は、第14回モノガタリ交流会でひめ監督にスタジオバグース制作の『宇宙船からのSOS!』をご紹介いただいた影響が大きいと思っています。
正確に言うなら、第14回モノガタリ交流会で『宇宙船からのSOS!』に出会い、なおかつメタシアター演劇祭の企画「映画監督クロストーク」でひめ監督とだめがね監督の対談を視聴した影響が大きい、というべきでしょうか。
「映画監督クロストーク」を視聴する前のわたしはVRC「映画」と言うからにはまさに映画らしい映像美や演出を追求していくべきものという先入観をもって考えており、好きな洋画などの影響もあってハードボイルドものっぽい映像を撮れないかと模索していた時期でした。
そしてどうやらそれはわたしの技術では難しいらしい、ということもわかりはじめていた時期でもありました。
ですが「映画監督クロストーク」でひめ監督が「VRC映画はアニメだと思っている」と仰っていて、わたしはそこにピンと来ました。
「あ、そういう捉え方もあるんだ」と視点が開けたようで、そこから第14回モノガタリ交流会のことを思い返し『宇宙船からのSOS!』を見返した結果その通りになっていたので「VRC映画でアニメをやっていいんだ!」と吹っ切れたわたしは、わたしの魂のアニメ「遊戯王DM」の遺伝子を取り入れた『AVATAR DUEL!!』の輪郭を成立させてゆくことになります。
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画面をナナメに割って複数のキャラのアップを表示させる絵作りは『遊戯王デュエルモンスターズ』でもお約束であると同時に『宇宙船からのSOS!』にも存在する「アニメ的演出」の一例になるでしょうか。
ひめ監督が「映画監督クロストーク」で今後の野望として「僕以外のVRC映画クリエイターを全部潰します」と言っていたので、もしわたしがVRC映画クリエイターの勘定の内に入るならご本人はこの経緯についていい顔をしないだろうなとは思ったのですが、一方的に感謝したいので世界の片隅でひっそりとお礼を申し上げます。
ひめ監督ならびにスタジオバグース制作陣の皆さま、ありがとうございます。
皆、スタジオバグース最新作『Lets 前編:翻転する守護者』を観よう。
アクションや演出にも更なる磨きがかかっていてすごいよ!
(余談終わり)
・結び――死ぬまで「花火師」でありたい。
以上が、わたしが『AVATAR DUEL!!』を制作するに至った経緯です。
技術的にあれをやったこれをやった、とかは深堀りすればもうちょっと話せるかもしれませんが、そういう話はもっとちゃんとした人がちゃんとした形で(それこそだめがね監督の「VRC〈ブイチャ〉で映画を撮る前に…」とか)既にしているので、あくまでわたしの精神性と経験について語らせていただきました。
率直な感想を言えば、本当に作ってよかったです。
少なくとも二か月の間、一つの作品を形にすることに本気で打ち込んで、締切まで間に合わせることができたし、その力が自分にはあるんだと自分に対して証明できたことがすごくうれしいです。
そして、やったこともないことに挑戦できて楽しかった。
ですが、作品はこれから審査を待つ身ではありますが『AVATAR DUEL
!!』はわたしの中では役割を終えました。
既に世に送り出した以上、観て下さる皆さま、世の中に捧げたものになっているからです。
第3回VRCムービーアワードに応募したものであるため、賞という形での結果はもちろん欲しいですが、そればかりにこだわりはしないと決めています。
わたしは結果主義者ではないからです。
他人の作品と自分の作品を比べて「自分の作品は……」とかも思ったりはしない(というのは嘘で、そう思わないように努力してます)。
わたしにとって本当に大切なこと。
それは、死ぬまで何かを創り続けること。
それだけは外部的な要因になど左右されない、わたしの意志ひとつ、腕ひとつで守り続けられる生き方だからです。
わたしは既に『AVATAR DUEL!!』という花火を打ち上げ終えました。
だからこの記事は、ただ花火の残り香です。
わたしがすべきは、打ち上げ終わった花火に拘ることではない。
そう思って、この記事を書くことを思いつきました。
わたしの仕事は、次に打ち上げる花火のこと。花火を打ち上げ続けること。そして、花火師であり続けること。
では花火そのものは、つかの間の僥倖に過ぎないのでしょうか。
まさしくわたしはそうだと思います。
けれどその一瞬に過ぎないものだからこそ、情熱を秘めて取り掛かる価値があるのです。
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だからやはり、わたしは思います。
『AVATAR DUEL!!』をやってよかった。
この作品はわたしが花火師であるための、大事な大事な花火の一発分だったのです。
・余談②――新たな景色を見たい
今回『AVATAR DUEL!!』をやって思いましたが、ひとりで大きなことをやることへの限界を感じました。
今までは一匹狼を貫いてなんとかやってきましたが、マンパワーの重要性や背中を押してくれる人のありがたさを身に染みて感じました。
VRC映画に限らず、いずれは座組を組んで何か大きな創作をすることにも挑戦し、可能性を広げてゆきたいなと考えています(もちろん、複数人で事に当たるからこその難しさもあることは承知しています)。
その足掛かりというわけではないですが、もし何らかの創作的プロジェクトでわたしの力を必要として下さるなら、分野を問わずお話を聞かせていただきたいなと思っています。
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