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イタリアとホットケーキ。

ホットケーキが食べたい!

ほのかが力強く私にリクエストしてきた。

じゃあ作ろうか。と週末。またしても吉田さんの家でホットケーキの会が行われることになった。

小麦粉100g
グラニュー糖30g
塩ひとつまみ
ベーキングパウダー小さじ2。
粉類を2回ふるって空気を含ませ、
牛乳100cc
卵1こ
サラダ油大さじ2とバニラを3ふり。
泡立て器で混ぜてフライパンで焼く。
ポツポツ穴が空いてきたら裏返してまた焼くーーー。

ミックスより断然美味しくて、それでいて簡単。
さらにメープルシロップを致死量くらいかけて食べる。
私は手作りホットケーキが結構好きだ。

3人で焼いては食べを繰り返していると、ほのかが言った。

『そういえば最近恋愛はどうなのよ』と。

そこで私は話すことにした。


この秋の始まりに起こった悲劇を。。。


夏の終わりに恋人でも探そうかと始めたマッチングアプリは、
何も言わずに2分遅れてくるような男の人ばかりに当たってしまうし、
ご飯を食べるときの箸の持ち方が特殊すぎて料理の味がしないこともあった。
そのうえ、初対面の人と会うのは緊張するしで少し疲れて平日を迎えていることに3週経って気づいたのでやめることにした。

それでも恋人が欲しいと話をしていると、
男性を紹介された。

東京の大学を出て、地元の金融機関で働いている35歳の彼は
『商店街のマックスマーラーの前で待ち合わせしましょう』とLINEをくれた。
短いながらも的確で、ティファニーやロレックスの前とか、
スタバやダイソーの前ではなく、『マックスマーラーの前で』
と言われたのがなんとも新鮮でちょっとだけ好きだった。

予定の時間2分前に現れた彼は、すらりとしていて、
まだあまり汚れていない綺麗なスニーカーを履いていた。
そして何よりしっかり”イケメン”だった。

私たちはご飯を食べ、仕事の話を少しだけした。

時間が経ち、休みの日何してるんですか?の話になった。
彼は「こういう世の中になる前は東京とか行って飲んでました」と言った。
瀬戸内暮らしが気に入っている私からしてみれば、なぜ飲みにいくのにわざわざ東京なのだろうとも思ったが、そこは赤ワインと一緒に飲み込んだ。

その後、なんやかんやあって旅行の話になった。

彼はアジアを中心に5カ国ほど行ったことがあると教えてくれた。
そして「のりこさんはどんな国に行ったことがありますか?」
と私に尋ねた。

私はアジアは3カ国ほどで、あとはヨーロッパに行ったことがあると話した。
「イタリア、ドイツ、スウェーデン、デンマーク、あとスロベニアとか・・・」

『スロベニアってどこですか?』そう彼が訊いてきた。

私はスロベニアに行って以降、何度も色んな人にスロベニアってどこですか?と
訊かれることがある。だからいつものように答えた。

「スロベニアは地中海に面している国で、まず、イタリアがあるじゃないですか」ここまで私がいうと、

彼は『すみません(笑)わかんないです。』と言った。

正直、ここでつまづくことは珍しい。
少し困惑したけれど私は続けた。

の:「イタリアって半島じゃないですか、そのイタリア半島の。。。」
彼:『半島って?』
の:「えっと、半島です。島じゃないというか、紀伊半島の半島と同じ半島」
彼:『紀伊半島?』
の:「とにかくね、イタリアは島じゃなくて陸が海にでっぱていて
   その付け根の方の東隣にスロベニアはあるんです」

わたその説明に彼は『なんだかよく分からないけどそうなんだ』
というような反応を見せた。

残念だった。
すごくかっこいいのに、
イタリアの場所も知らないで生きてこられた人なんだと。。。
コロナ前は東京に行って遊んでいたと話していたけれど、
イタリアの場所も分からないのにミートソースはミートのソースだの、
マルゲリータはイタリアの国旗を表しているんだよ。だのと話を
していたのかと思うと残念でならなかった。
(そういうことを言っていたという確証もなければ勝手なイメージ)

すごくかっこいいのに、
30過ぎてイタリアの場所も分からないで生きていたという事実もすごいが、
コロナになって2歳年を取り、35になってなお、
イタリアの場所が分からず生きている。
そしてそれを恥ずかしいことだとは思わない。。。
人としては相当薄いのに面の皮は相当厚いのだとある種感心した。
残念なイケメン。これがイケメンでなかったらきっとイタリアの場所くらいわかっていただろう。そう思うと悲しくもなった。かわいそうだとさえ思った。

確かに私は恋人は欲しい。しかし申し訳ないけれど、
イタリアの場所がわからないような人とご飯を食べても楽しくないし、
当然そんな年上の男性には魅力も感じない。
”マックスマーラー前待ち合わせ”がピークだったのよ。
と私は「初秋のマックスマーラーの悲劇」を話し終えるとほのかは言った。


「わかるよ。私もブエノスアイレスがわかんない男とご飯食べたことある」


ブエノスアイレスとイタリアは全然違うと私は思う。



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