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第14回「便箋」3分

人物
松田リル子(30)会社員
伊藤兼弘(31)リル子の婚約者

〇喫茶店・外観

〇同・内
松田リル子(30)が若草色の便箋に書かれた手紙を読んでいる。
テーブルの上に、若草色の封筒、署名された婚姻届、飲みかけのコーヒー。
リル子、便箋をテーブルに置く。
コーヒーを一口飲むリル子。
外でカップルが手をつないで歩いている。
リル子、ため息交じりに便箋を読み返す。

〇伊藤のアパート・外観

〇同・内
引っ越しの準備をする伊藤兼弘(31)。
伊藤、引き出しを開ける。
紐で綴じられた20枚ほどの若草色の封筒。
伊藤は封筒を手に取る。

〇喫茶店・内
リル子、封筒に便箋と婚姻届けを入れて糊付けをしている。
封筒の宛名は伊藤兼弘になっている。
リル子、冷めたコーヒーを一気に飲み干す。

〇伊藤のアパート・内
広げられた封筒、便箋。
伊藤が若草色の便箋に書かれた手紙を読んでいる。
伊藤、寝転んでスマホを取り出して電話する。

〇道
ポストの前に立つリル子。
若草色の封筒をポストに入れようか迷っている。
リル子のスマホが鳴る。
リル子「はい」
伊藤の声「あ、久しぶり」
リル子「うん……」
伊藤の声「今大丈夫?」
リル子「……うん」
リル子は封筒を鞄へ入れる。
伊藤の声「今さ、手紙読んでた」
リル子「……」
伊藤の声「リル、ごめんな」
リル子はスマホを持つ手が震えている。
リル子「何が?」
伊藤の声「こんな形になって、本当ごめん」
リル子「……」
伊藤の声「なんだか、もう会えないと思うと、もう一回電話したくなった」
リル子「……何よそれ」
リル子は歩き出す。
リル子「どの口が、そんなこと言ってんのよ」
伊藤の声「リル……」
リル子「面会に何度も言って、弁護士も用意して、どんな気持ちで待ってたと思ってんの」
伊藤の声「ごめん」
リル子「そんな人と結婚しようとしてただなんて、本当に自分が嫌」
伊藤の声「ごめん……」
リル子、信号待ちをする。

〇伊藤のアパート・内
伊藤はスマホで話している。
伊藤「リル、俺、もう一度やり直せないかな」
リル子の声「何言ってんの?もう無理だよ……私、カネちゃんとやっていく自信ない、けど、けどさ」
伊藤は大粒の涙を流す。

〇伊藤のアパート・前
リル子スマホを耳に当てて伊藤の部屋を見上げている。
リル子の横をコンビニの袋を下げた女が通る。

〇同・内
伊藤、便箋の上に涙を落しながら
伊藤「ごめん、本当に、こんなに大事にしてくれてたのに」
リル子の声「手紙、読んでるの?」
伊藤の声「そう、中にいる時に送ってくれてたやつ」
リル子の声「カネちゃん……」
伊藤「これ、俺何回も何回も読んだ、本当にごめんって……」
玄関のドアの開く音。
女の声「お邪魔しまーす、ねー、お弁当買ってきたよ」
伊藤、慌ててスマホの通話を切る。

〇同・前
耳にスマホを当てたまま、伊藤の部屋を見上げるリル子。
冷めた顔でアパートの入り口へ進む。

〇同・一階レターボックス前
リル子、鞄から若草色の封筒を取り出しビリビリを破る。
細かくなった若草色の紙屑を伊藤のレターボックスに突っ込む。
レターボックスからはみ出た婚姻届の切れ端が風になびいている。



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