第12回「ハンカチ」3分
人物
木田公平(31)会社員
山下恵美(30)木田の元同僚
園村はなえ(58)未亡人
○東京駅(夜)
○同・丸の内側(夜)
木田公平(31)と山下恵美(30)が向かい合っている。
木田「ごめん、山下さん」
恵美「いい、いいよ、私が突然変なこと言うからだよね、ごめんごめん、忘れて」
と立ち去る。
木田、2枚の切符を持ったまま立っている。
○東北新幹線ホーム(夜)
木田がホームのベンチに座っている。
待合室にいる仲睦まじい男女。
木田は手元の2枚の切符を見ている。
○東海道線新幹線ホーム(夜)
恵美がベンチで泣いている。
恵美の横に座る着物姿の園村はなえ(58)。
はなえ、恵美を見てハンカチを差し出す。
戸惑う恵美。
はなえ「使っといたらええやん」
恵美、頭をペコペコさせながらハンカチを受け取る。
恵美「私、私…」
はなえ「泣いてなんになるん?」
恵美「え?」
はなえ「私みたいな優しいやつばっかじゃない、いや、優しくないかも私も」
はなえ、左手の薬指に指輪をつける。
はなえ「旦那じゃない人にずっと、ずっと会いたいって思っててな、今日会ったんよ」
恵美「私も、会いたい人と会ってきました」
はなえ「一緒やね」
恵美「けど、振られました」
はなえ「私も、優しい人やなって思ってて、けどあかんかった」
恵美「なんだか、自分で一人で芝居やってたのが終わったみたい」
はなえ「そう、考えることがなくなるんよね、」
恵美「私、今思うも間抜けな感じがしてきました、なんでこんなに泣いてんだって」
はなえ「薄情やね、ほんま」
恵美「もしかしたら、そういうところを見透かされてるのかも」
はなえ「それ、すごいなぁ、やっぱりすごい人、好きになったんやないかな?」
恵美「それも自分を棚に上げてる感じになってますよね」
笑い合う恵美、はなえ。
○東北新幹線ホーム(夜)
待合室の男と女がケンカしている。
ケンカを見る木田。
木田は2枚の切符の一枚を落とす。
木田「あっ」
駅員が切符を拾う。
駅員「こちら、どうぞ」
木田「あ、すみません」
駅員「そちらの列車ですが、少し遅れております、ご迷惑をおかけしますが」
木田「あっ…」
と、頭を下げる。
アナウンス「列車の遅れのご案内いたします…」
待合室の男女、動きが止まる。
力が抜けた男女、ベンチに座る。
木田、男女を見ている。
男女が手を繋ぐ。
木田、2枚の切符を持って走り出す。
○東海道線新幹線ホーム(夜)
新幹線に乗り掛かる恵美。
木田、息を切らして恵美を止める。
木田「さっきの、はぁ……もう一回やり直して、くれる?」
恵美「えっ、」
木田「今度は、自分がいう、伝えるから」
恵美、うつむいたまま固まる。
発車のベルが鳴る。
木田、恵美の袖を掴んでホームへ降ろす。
走り出す新幹線。
恵美、木田と向き合って微笑む。
○新幹線・内(夜)
はなえ、窓から恵美と木田を見ている。
はなえ「本当、女は薄情ね」
恵美、背中にハンカチを持ってピースサインをしている。
はなえ、ニヤッと笑う。
了