第21回「先生と生徒」3分

人物
影田タカヒロ（41）陽光学園高校教師
山田武治（17）陽光学園生徒
鈴木（48）学年主任

〇陽光学園・外観
強い陽で照らされている。
しなだれたヒマワリ。

〇同・内
休み時間で賑わう廊下。
食事をする生徒。

〇同・渡り廊下
影田タカヒロ（41）が渡り廊下から階下を見ている。
影田の足元には脱いだ靴がそろえて置かれている。
体をギリギリまで外へ出す影田。
中庭から影田を見上げる山田武治（17）と目が合う。
急いで体を引っ込める影田。

〇同・中庭
渡り廊下を見上げる山田。

〇同・職員室（夕）
影田の机には山積みの書類、手作りの湯飲み、小さなスケッチが飾られている。
影田は遅い筆で宿題のチェックをしている。
鈴木（48）が影田の机へきて、
鈴木「影田先生、夏休みの配布資料、準備できてます？去年も遅くってみんな困るんですよね、お願いしますね本当」
影田「ああ、はい、大丈夫です」
立ち去る鈴木。
引き出しを開けて退職願をちらっと見る影田。
影田は引き出しをそっと閉めて席を立つ。

〇同・中庭（夕）
人気のない校舎を見上げながらポケットの煙草を触る影田。
渡り廊下を見上げる影田。
ぼんやりと明るい渡り廊下に気付く影田。

〇同・階段
暗がりの中を歩く影田。
美術室の中を眺める影田。
美しい絵画、彫刻。
影田の歩く音が校舎に反響している。

〇同・渡り廊下（夕）
重い扉を開けて渡り廊下へ進む影田。
煙草の灯りに照らされた山田がしゃがみこんでいる。
山田「あ、先生」
影田はあきらめたような笑いで山田の横へと座る。
山田、煙草の煙を吐いて、
山田「先生も吸うんでしょ」
影田は小さく頷く。
山田「わかる、ここで吸うとうまいんだよね」
影田は立ち上がって沈みかける夕日を見ている。
山田「先生ってさぁ」
影田「ん？」
山田「先生でよかった？」
影田は夕陽を見たまま動かない。
山田は次の煙草をくわえて立ち上がる。
山田「まぶし……」
影田「なぁ」
影田と山田は帰宅するサッカー部の集団を見ている。
影田「サッカー選手、とかではなかったな」
山田「今時、そんなこと言う奴いねえよ、はは」
影田は笑う。
サッカー部の笑い声が聞こえる。
山田「アイツらも、サッカー選手目指してるわけじゃないのにさ毎日、よくやるよね」
と、次の煙草に火をつける。
山田「俺はああいうことができない、やってる途中で自分が見えてくるというか」
影田「ああ、」
山田「違うかなって、それで終わる」
影田は山田の煙草を見ながら
影田「山田は、よくしゃべるな」
山田「いまそこ？」
影田「これくらいになると、あんましゃべんなくなるぞ、はは」
山田「無口？」
影田「そういう気持ちとか、考えとか、伝えたいとか、消えてくんだよだんだん」
山田は細く息を吐く。
影田「俺は、先生が目的で生きてないよ」
山田はしゃがみこむ。
影田「煙草吸って、飯食って、先生して、カネもらって、寝て、時々、山田と話す」
山田「そこ、同列なの？」
影田「なんかな、成り行きなんだよ、いろいろ、山田と話すことも重要な気もするし、そうじゃない気もするしな」
山田「先生」
影田「ん？」
山田「結構おしゃべりだね」
静かに微笑む影田。
影田「あー、夏休み来るな」
山田「よっしゃー」
影田「俺も休みだー」
笑いあう影田、山田。
山田「感情出てんじゃん」
影田「だなー」
と、山田の口元から煙草を取り上げて。
影田「気持ち出てきたわ、ほれ、やめろ」
山田「ちぇ、っ元気になるとだめだね」
影田「ま、お前と話したからだよ」
と、山田の肩を叩く。
了