【韓国文化研究者の韓国ドラマ考察】「トッケビ」第2回:登場人物“全知全能の神”と”女の幽霊”を考える
引き続き、「トッケビ」の登場人物を考察していきます。今回は、主要な登場人物残りの2人について紹介します。
※ネタバレあります。
登場人物❺:全知全能の神
まずは全知全能な「神」。トッケビは、神のはからいによって、記憶をもったまま生き続けます。この「神」は、トッケビや死神、三神ハルモニなど劇中のスピリチュアルな登場人物の頂点に位置しますが、韓国の宗教文化では、こうした超越的神は「玉皇上帝」といいます。この神様は、「トッケビ」のセリフ中にも登場するし、ドラマ「明日」ではキム・ヘスクさんがこの玉皇上帝役を演じていますね。
玉皇上帝とは、中国の道教の神様のこと。人間の寿命や吉凶禍福に関与する存在で、朝鮮半島では民間信仰の巫俗(シャーマニズム)の最高神として信仰されてきました。別名ハヌニムとも呼ばれます。
ドラマ「トッケビ」の副題は「쓸쓸하고 찬란하神 도깨비」となっています。「寂しげで燦爛たられる神トッケビ」。日本では妖怪や鬼を「カミ」と呼びませんが、韓国ではトッケビも「신(神)」です。人間がトッケビになるとか、死神と同一線上で語られるところはフィクションでしょう。
神の話に戻しますが、人間が神の手のひらの上で運命づけられ、神によってあらかじめプログラムされた人生を生きるという「トッケビ」の物語中の設定は、キリスト教の神観のように思えます。時に人物に憑依してしまうところは、巫俗の神観を連想させます。「蝶」として現れるところでは、亡くなった慰安婦のハルモニを「蝶」に例えていたことを思い出します。死者の魂を蝶に例えるケースは、世界中で見られます。
登場人物❻:女の幽霊
二人目は、ウンタクの周囲に登場する「女の幽霊」たち。韓国の伝統社会では、若者の死とそのたたりを強く恐れてきました。なぜなら、結婚せずに死んでいるからです。儒教社会では、年頃になって結婚し、自分の死後に自分の祭祀をしてくれる子をもうけて死んでいくことが望ましい人生と考えられていました。なので、親よりも早く死ぬことは最大の親不孝であると同時に、本人も子孫がいないので祭祀をしてもらえなくなるという問題が起きました。その強い恨みを晴らすために、シャーマンの儀礼を執り行って恨みを解いてあの世に送ったり、死後結婚をして養子を得たりしていたのです。
2014年に起きたセウォル号沈没事故のインパクトは、こうした死生観があったことからも、大変なものでした(もちろん日本でも、セウォル号のような大事故は社会的トラウマになったでしょうが)。セウォル号事故後、犠牲者のために巫俗の厄払いや慰霊儀礼(鎮魂クッ)など、宗教的な儀礼も実際に執り行われています。
さらに、「トッケビ」に登場した幽霊は、ほぼ女性でした。未婚で死んだ若者の中でも、女性は特に強い怨霊になると考えられていたからです。こうした傾向は、日本にも見られ、女性の幽霊が登場する怪談やホラー映画は両国にあふれています。
次回はドラマの内容に入っていきます。
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