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マグロ団 ③ 〜伝説〜
Uターンで田舎に戻ったサラリーマンが、転職先の突然の辞令で海外出張の嵐に巻き込まれていく… これは実話である。
<<マグロ団 ② 〜出撃〜 の続き
第七話 深圳最後の日
Y君には深圳に彼女がいるらしい。
何度もここに来ているのだから不思議ではない。
この仕事は公私問わず「出会い」は多いと感じる。
Y君は今回の仕事で同じグループになった青年だ。
フリーランスで歳の割にしっかりしている。
夕食を共にすることも多く、仕事以外の話もした。
「親は反対してるけど結婚を考えているんだ」
と照れて笑う彼の待ち受けには彼女が写っていた。
ここで話題は携帯電話に移る。
当時はスマホが存在しない。
よって、連絡手段として海外で使える携帯が必要となる。
SIMカードを差し替えれば、東南アジアの各国で使える。
「メンバーで持ってない人はいないよ」
そう言われ、Y君の付き添いで携帯を買いに行く。
こんな具合に、Y君は私の1番目の師匠となった。
最低限必要な工具についても彼に教えてもらった。
「帰国したら速攻で買うぞ」
そう思うのも束の間、管理スタッフからの司令が入る。
場所:マレーシア
日程:4日間
集合:深圳から直行
メンバー:深圳から2名+現地合流2名
Y君とはひとまずお別れ。
翌日、マレーシアに向かった。
第八話 インジェクション
常夏の国マレーシアは、近代都市と美しい自然が共存した国だ。
トランクに夏服を入れて来て良かった。
暑いが灼熱と言うほどではなく、個人的には快適な暑さを感じた。
宿泊先のホテルの部屋は広く、地下にはカジノもある。
今回の現地アテンドは日本人のため、顧客とのやりとりがスムーズに行え、最終日の空き時間に観光案内までしてもらった。
観光前に寄ったハードロックカフェで、初めて食事をしたが「たけぇ…!」が正直な感想。
都市名もプリントされているので、記念にTシャツを買うことにした。
以後、行った国でハードロックカフェのTシャツを買うのが私の習慣となった。(食事はしませんけど)
ツインタワーやショッピングモールをまわり、夕食はなぜか「焼肉屋」へ。
仕事中は現地料理だったことと、アテンドも日本人であるため、そう決まったらしい。
タクシーで店に到着。
広い店内は、半分がテーブル席で、半分が畳敷きになっている。
日本と違ったのは、隣に座った女性が焼いてくれること。
(注:行った店がたまたまこのスタイルであった)
以前に日本で「ノーパンしゃぶしゃぶ」なるものが流行った時期があるが、それとは違う。断じて違う。
ただ焼いてもらい、みんなで楽しく会話するというもの。
そこのところ、誤解しないで欲しい。
敗者は焼酎を一杯飲むルールで、流行りのゲームで盛り上がる。
地下労働の給料日に、焼き鳥とビールを貪るくらい楽しかった。
「マンガのストーリーでは、次に後悔が訪れる展開だが…」
それは突然訪れた。
私は酒が弱い。
だが、この日はいくら飲んでも吐き気は襲ってこなかった。
調子に乗って焼酎を何倍飲んだか分からない。
そして突然の眠気に、周りに断りをいれて隅に横になった。
やがて周囲の声が遠くエコーがかかっているように聞こえる。
体は動かず、猛烈な寒気に震え出す。
ついに店の外のベンチに運び出される私。
群がる野次馬。
どこで呼んだのかドクターが登場し、スボンをおろしてケツに注射。
その後、ホテルに運ばれ、フロントから車椅子で自分の部屋に。
ルーキーの私が、仕事と関係のない伝説を残した出来事だった。
いや、全然よくない!!
この日以来、焼酎を飲むと蕁麻疹が出る体質になってしまった(泣)
第九話 一時帰国
15日ぶりに帰国して3日間の代休をとる。
次はタイの予定が入っていて、1ヶ月半は帰れない。
今のうちに旅費精算を済ませ、工具をそろえなければ。
Y君情報のリストを持ってホームセンターに行く。
「めっちゃ重いっ」
買い物カートの中は凄い量だ。
それに耐え得るアタッシュケースも購入。
これでなんとか作業ができそうだ。Y君に感謝!
タイのメンバーはSさんとOさんと私の3名。
SさんとOさんは同じ会社らしい。
3人で毎日残業してもカツカツのスケジュールだ。
戦力外などと言ってはいられない。
深圳で一緒だったSさんが、私に対してあたりが強かったことを思い出し、一抹の不安が頭をよぎる。
長期出航のため成田に向かった。
マグロ団 ④ 〜故郷〜 に続く>>