マグロ団 ② 〜出撃〜
Uターンで田舎に戻ったサラリーマンが、転職先の突然の辞令で海外出張の嵐に巻き込まれていく… これは実話である。
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第四話 未来道具
突然の辞令で海外なんて… 騙し打ちにあった感が否めない。
数ヶ月ならまだしも、後付けで年単位、しかも終わりが未定。
しかし、不可抗力ではあるが走り出した船に乗ってしまった。
その船を漕いで行け♪とTOKIOの人たちも言っている。
とりあえず明日の仕事をこなさなければならない。
ホテルで鬱々と眠りについた。
翌日の作業は驚きの連続だった。
まず第一に、用意した工具が足りない。
全然足りない!
数値で表すなら100のうち99足りない。
スキルの有り無し以前の話である。
次に、仕事の複雑さにびっくり。
1台仕上げるのに4人で3日のスケジュールに納得した。
何百点ものパーツを順番にバラし、パーツを交換し組立、1000分の1の精度で調整、制御プログラムのインストールとテスト、不要部品の梱包とshipping listの作成などあげればキリがない。
しかも機種は他にもあり、それによって作業内容も違ってくるらしい。
機械の中、機械の上、機械の下で作業する3人。
それぞれが名前を知らない部品を、名前を知らない工具で付けたり外したり、計測したりしている。
アウェイ感というか、おいてけぼり感が半端ねぇ。
彼らが完全武装のアベンジャーズだとしたら、私はマイクを持ったジャイアン。戦力になりましぇん。
せめてドラえもんの未来道具が欲しいです!
ホテルに戻ると速攻で会社に電話をかけた。
私 「工具、全然足りませんけど?」
部長「俺もわからんのだよ。周りに聞いて徐々に買い揃えてくれ!」
なんでやねん!
その時、管理スタッフから次の仕事の指示が入る。
行先:中国の深圳
日程:9日間
集合:成田
メンバー:12名(初対面)
雪降る夜空に、「マグロ団」出陣のノロシが上がった。
第五話 チェックイン
深圳は中国の南東にあり、香港の上に位置する近代都市である。
超高層ビルが乱立し、ショッピング街は人でごった返している。
当時はコピーブランドの最大市場と言われていたが、今では先進企業が集う未来都市になっている。
香港経由で深圳に入るため、2回の入国手続きが必要となる。
バス代のためだけに香港ドルへ換金するのが面倒だ。
飛行機のフライト時間は短いが、成田のホテルを出てから深圳のホテルに着くまでに、なんやかんやで10時間もかかってしまった。
フロントでパスポートとクレジットカードを渡し、チェックインをする。
ホテルの各階にはカウンターがあり、そこの係員にクリーニングを頼めば翌日には部屋に届くらしい。
洗濯には困らないようだ。
また、フロント横に日本人専用のサービスカウンターがあり、何か困ったらここを訪ねればいい。
部屋に運ばれたスーツケースを開ける。
荷物を整理し、時差調整のため腕時計を1時間もどした。
ちなみに、中国では原則的にチップの必要がない。
ただし、ホテルのボーイが荷物を部屋まで運んだ時、要求されることがある。10元ほど渡せば良いそうだ。
複数の荷物をいっぺんに運んだ場合、一番最後の部屋の者が払うという謎のルールも存在するという。
身支度を終えフロントに集合したメンバーは12名。夕食に出た。
この時、わかったことは
・チームを編成する際、管理スタッフはリーダーを一人設定する。
・仕事前夜は全メンバーで夕食をとり、顔合わせと打ち合わせを行う。
・それ以外の夜は自由行動となる。
会食の席でリーダーからタイムスケジュールが告げられた。
A社で3日 → 1日休み → B社で3日 の作業。
作業内容は…現時点では理解できなかった(涙)
新人の私はメンバー全員に自己紹介をした。
皆さん、私と比べてプラマイ5歳くらいに見える。
できることを一つづつ増やしていこうと決意するのであった。
第六話 スタートライン
朝食を終え、4台のタクシーに分乗してA社に向かう。
急発進、急ハンドル、クラクション連打!
荒ぶる運ちゃんにビビりながら、ようやくA社に到着。
もう、助手席に乗るのはやめよう(汗)
担当者に案内され、3台並んだマシンの前へ。
リーダーの指示で3つのグループに別れ作業に入る。
みんな手慣れた感じで作業を始める。
どうやら各グループで早さを競うようだ。
誰もが自分の技術に自信を持つプロの集団といった感じ。
そんな中で「教えてもらう」と考えていた自分の甘さを痛感した。
そもそも、この組織は下請け会社の寄せ集めだ。
つまり、仕事をこなす上では「仲間」であっても、他会社の人間はある意味「敵」なのだ。
各自、仕事を受けている以上、自身の技術を高めて存在価値を明示し、ポジションを死守しなければならない。
会社にとって新人教育は必須であるが、他会社の人間を教育する義理はない。
他会社の者を排除し、そこに同会社の人間を入れる方が良い。
しかも、チームの中にはフリーランスのエンジニアが何名もいる。
率先して人に技術を教える環境ではないのだ。
したがって、「教えてもらう」という姿勢では生き残れない。
「仕事を覚えたけりゃ盗みな」 そう言われている気がした。
この日から私はメモ魔になった。
わからないことは全てメモる。
名称がわからなければ、マンガを書いて後で調べる。
可能なら写メを撮る。
ホテルに戻ってから、1日のまとめを行う。
技術は作業しなければ身につかないことはわかっている。
その「作業する」というスタートラインに立つための努力が始まった。
思い出してたら胃が痛くなってきたので、ここで小休止。
初めての中国で感じたことをいくつか記そう。
印象に残ったことーーーーーーー
1.食べ物がうまい
中華好きな私にとって、食事は満足できた。
レストラン、社内食堂、屋台のどれも旨かった。
台湾の八角は大の苦手だが、中国はいける!
練乳を付けて食べるマントウもなかなかの美味。
2.甘いお茶
中国で売られているペットボトルのお茶は甘い。
砂糖や果汁が入っている。
ただし、路地裏や田舎方面にある駄菓子屋的な店では要注意。
そういった店でペットボトルは買わない方がいいらしい。
空ボトルに液体を入れ、キャップを溶接して販売することがあるとのこと。
「コンビニなら大丈夫」だそうだ。
3.ウンコはホテルで
外出時はポケットティッシュが必要。
トイレットペーパーの設置がない場合があるから。
客先の工場にあるトイレにも紙はなかった。
使用した紙は流してはダメで、据付のゴミ箱に入れる。
え? まじですか?
使用後は蛇口に繋がったホースで便器を水洗いする。
まあ、あれだ… 大きい方はホテルでしよっと。
4.新聞売りの女性
私の泊まったホテルでは、毎晩チャイムが鳴った。
ドアを開けると新聞を持った女性が立っている。
売りに来たのか?
「いや、読めねーし」
そんな身振りで毎回断っていたのだが…
後から聞くと「今晩どう?」の意味らしかった。
5.日本人カラオケ
日本人をターゲットにした飲み屋がある。
印象に残ったのは日本人カラオケ。
どこのカラオケも同じ形態なのかは不明だが…
部屋に通され待っていると、ナンバープレートを付けた女性が入ってくる。ホステスを指名するシステムのようだ。
ってか、これカラオケじゃなくね?
全員が指名し終わるまで何人も入ってくる。
いったい何人いるのだろう?
これで商売になるくらい日本人の客足が途絶えないってことか?
6.たくさんのケータイ屋さん
この時代、日本のケータイは折りたたみ式が人気で、光るアンテナやデコレーションなども売られていた。いまで言うガラケーだ。
日々新しい機種が発売され、CMもたくさん流れている。
中国でもケータイ販売の専門店が多数あり、日本をはるかに超える数の機種が店頭に並んでいた。
多すぎて全てを比較できないくらいの数だった。
7.中国人は勤勉家
工場で作業をしていると、そこの社員が休み時間にマシンの周りに集まり、我々の作業を注視してくる。
質問してくる人もいる。
「すみません、ちょっと何言ってるかわかりません(笑)」
飲食店や土産売り場の若者も日本語を話せる人が多い。
年配者は反日感情を抱く人が少なくないらしいが、若者は違う。
商売上のためではなく、彼ら(彼女ら)は日本の政治にも詳しく勉強しており、日本で働くことを夢見ていると言っていた。
ただ、これはあくまで当時の話である。
今の日本に対して夢を抱く中国人がいるのかはわからない。
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(時を戻そう)
入団してしまったマグロ団 … 前途多難な旅は続く。
次に向かうのはマレーシア。
マグロ団 ③ 〜伝説〜 に続く >>
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