冷やし「カップ」ラーメン
よいこのみんな! マネしちゃだめだゾ☆
ある土曜の朝。これから仕事やらな……というぐんにょり感と、前日メシがサラダチキンとプリンパフェとか、白飯と雑炒め肉 with 焼肉のたれ feat. WASABIなどで、なんかこう朝から体に悪いメシたべたい欲が燻っていた。
戸棚を空ける我。目と目が合う。恋の予感。
そういえば残暑の折、世間では冷やしラーメンも花盛り(だいぶ前からある)。じゃあ冷やしていこうかなと思うのも人情である(人には温かく接しよう)。やるか。冷やしカップラーメン(やきそばだが?)。
「やろう」
「やろう」
そういうことになった。
開封の儀を厳粛に執り行い、辛味調味料とソースを出す。そして戸棚の乾燥野菜ストックを適量流し込む。こうすることでソースを余すことなく吸わせることができる。君も経験したことがあるだろう。獣のように『UFO』を食べ散らかした後の黒き血溜まりを。あのような惨事を繰り返してはならぬ。ソース開発者も浮かばれぬ。
かくて沸かしておいた湯を注ぎ、油断なくソースを蓋の上にそっ…と供える。祈り──そう三分間だけ祈ってやる──だが待てぬ。ストップウォッチのセットは端からするつもりがない。
茹でかけの麺をちゅるり。未だ粉感あり。祈り。そしてまたちゅるり。粉感消失。普段なら悪手。廃湯からソースinしてぐるぐるのタイムラグを考えれば遅い……しかし……これは「冷やし」なのだ……冷やせばコシがオギャるはずなのである。これより我、ヘルプ・オギャリスト也。
行けるか!? 科学的に考えてそれは再現されるのが大自然の掟、宇宙の真理、しかしあくまでカップ麺業界でそれをやった者は恐らくいない──あまりの恐怖で調べたくない──あくまでも未知未踏の領域なのだ。討ち死にも覚悟の上である。
さあゆけ! 恐れるな! カップやきそばの湯切り蓋は斬って落とされた。先日の洗い残しの油汚れありタッパに、容赦なく脂ぎった残り湯を注ぐ! なんたる外道! 古い油汚れを新しい油汚れでwash! チョロチョロ…チョロ…チョロ…とそろそろ湯の息も絶え絶えになったそのとき!
水道の蛇口をためらいなくひねる邪道! なんたる非道! 今までいい湯だな♪ と絆されていた麺に迫り来る水龍! 手のひらを返すように放たれる凍てつく波動! しかし夏の水はそこまでcoolではない……サウナ終わりし麺どもに水攻め……いや……違うこれは……
そう! 水風呂だッッ!
ととのえ! おれたちの麺!!
あな恐ろしや。湯水のごとく流される水。時と場所によっては貴重極まりない水を……こんな……っ! なんという贅沢! すぐに節水してしまいたい気持ちをこらえて悪に染まる!
ざるそばを思い出せ。
もっと激しく流水でわしゃわしゃされていたではないか。耐えろ。そうだ。常識のタガを外すとはこういうことだ。けして楽しいだけではない。自分が人間ではないナニカになる恐怖。それを乗り越えてはじめて至る領域がある。こわごわと目を開ける。瞬間油熱乾燥法ゆえの黄色い残り湯が徐々にうつくしく純粋で透明な水に流されて行く。
罪が……洗われていく……。
うっかり具が流されないよう細心の注意をもって支える我。残り湯とは違う。蛇口から責め立てる水量は強い。うっかりこの手を放せば、なにもかもが終わってしまう! 重責!
しかししかし、だがしかし。
我、やりきる。カップやきそば水責めの刑。
執行人は安堵した──そして速やかに調味料を合わせ実食。
なんこれウマイ。
冷たい! そして辛い! あまりの超絶調理過程に忘れられているかもしれないがこれはカップやきそば(担々麺・辛味注意報あり)である。新感覚ゥゥ~~~wow hoo♫
そりゃそうだよ誰もやんねえよこんなん。自由と責任の味がする。やはりなんというかこう、諸般の事情で冷ましちゃったけどあったか~い状態で食べたかった……という憧憬。幼さゆえの甘さ。これがあの「時間が経っちゃったカップやきそば」のマズさの源だったのだ。終わっていない夏休みの宿題の味。きらいすぎて残ってしまった給食と自分の惨めさの合わせ調味料。
そこで若さゆえの甘さを一切排し「うるせえ俺が冷ます」という激辛主体性、自由意志発露の旨味。レシピという神を破壊し約束されていなかった勝利の味。しかも破壊したところで誰にも迷惑かけてない! えらい!
神は!!!!! 死んだ!!!!!!!!!!!!!!
世の中に不平不満があって「こんな世界…壊してやる…ッ!」と思ってるみなさん。いうて世界を壊すと自分も壊されるからこわいな~とビビる良識は残されたみなさん。もっと手ごろな世界、壊そうぜ。なっ!(悪魔の囁き)
ただし常識を破壊した代償として「なんか冷たくてマズイ…」と思う事故に遭うかもしれないが自己責任だ。用法容量を守って己の趣味嗜好を知って、ただしく破壊しよう!
最低最悪非常識・クッキングバグ・おじさんとの約束だ。
追伸:
うむ、いままさに食いながらこれを書いていたが、時間が経って冷めるはずが、もともと冷めているのでまったくマズくならない。冷めたものが温まるより温めたものが冷める方が早いのだ。やはり夏の「冷やし」は最強だ。フフフ……クックック……ファーッハッハッハ!
われわれが深淵を覗くとき、深淵もまたわれわれを覗いているのだ……