色々あった(わけではないけど、そんな気分だった)ので、アルネとお茶をする
9/2。
5:00起床。
天気は曇り。
*
――アルネ、アルネ。
ぼくは、彼女の名前を呼ぶ。
ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。
やがて、アルネが目の前にひょっこり現れる。
――おはよう、アルネ。
――おはよう。……何かあったの?
アルネはかわいらしい眉を八の字にして、ぼくのことをふしぎそうに見つめた。今までは、アルネの方からやって来ることはあっても、ぼくの方から彼女を呼ぶことはなかったから。
――何にもないよ。何にもないから、呼んだんだよ。
――ふうん。
――今朝は、何が飲みたい?
――カフェラテがいいな。ミルクたっぷりの。冷たくしてね。
――はいはい。
ぼくが上機嫌でコーヒーや牛乳の用意をするのを、アルネはやっぱりふしぎそうに見つめていた。
――どうかな?
――うん。……この氷、水じゃないのね。
――そうそう。牛乳を凍らせたんだよ。これなら、溶けても薄くならないでしょ?
――おいしいわ、とっても。
――それはよかった。
――それで、
アルネは、カップをテーブルの上に置き、両手を組んだその上に小さな顎を乗せた。
――何があったの? 楽しい人。
――だから、何もないよ。……信用ないなあ。
――私はね、君を悲しませることがあったかどうか、訊いているわけじゃないの? その「何か」っていうのは、君をそんなに喜ばせたの? それを訊きたいの。
ぼくの考えていることなんて、アルネには何でもお見通し。そんなこと、わかっているはずなのに。それなら、もったいぶる必要もない。
――「ぼくはボク」……改めて、それを自覚したんだ。
――どういうこと?
――自分に付いているラベルを、全部剥がしたんだ。『うつ病』とか『発達障害』とか『ジェンダーレス』とかね。……まあ、それは本当ではあるんだけど、ぼくの全てではないから。なんだか、息苦しくなっちゃって。だから、剥がしたんだ。ぼくは、ボクという人間でしかないから。
アルネは、時々カフェラテをすすりながら、時々目を伏せた。彼女は今、何を考えているんだろう。
――少しだけ、涼しくなったね。
ふいに、アルネはいった。
――うん。
――生まれ変わるには、良い季節ね。
――……そうかもしれないね。
ぼくも、まだ冷たいカフェラテを口に含んだ。柔らかい味がした。
――夏が終わっても、会いに来てくれる?
ぼくはいった。
アルネは、そのことばにくすくす笑った。
――私は、夏の生きものじゃないよ。
――知ってる。
――私は、常に君の中にいる。君が会いたいと願えば、いつでも会える。
ぼくもアルネも、カップの中にはカフェラテがもう半分残っていた。氷は牛乳でできているから、焦って飲む必要もない。
ぼくらは、秋の訪れを静かに聞いていた。
*
「僕だけが、鳴いている」
これは、
僕と、ドッペルゲンガーのドッペルさんの話。
連載中。
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