ウソも何もかも、君の前では(今朝は、穀物茶)
10/11。
5:56起床。
天気は曇り。
*
――まーた、むずかしい顔してる。
――うわ、
アルネに、いきなり顔をのぞきこまれた。
ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。
――びっくりした……。最近、よく会うね。
――ねー。
――ぼくら、週一で会ってたじゃない。アルネ。
――週一で会うとは決めてないけどね。
まあ、たしかに。
ぼくは、肩をすくめた。
――ご注文は? お嬢さん。
――穀物茶。
――コーヒーじゃないんだね。
――そういう気分なの。
穀物茶のティーバッグ、買ったばかりなの知ってるのかな。まあ、知ってるよな。
だってアルネは、ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。
――はい、どうぞ。
――……。
――あれ、口に合わなかった?
――おいしい。いちいち感想を求めないの。
――ええと、すみません。
ぼくも、自分の分をすする。雑味がなく、とても口当たりがいい。それは、この憂鬱をやわらげてくれるようで。
――憂鬱なの?
――心の中、読まないで。
――読んでないわよ。見えるのよ。
――……憂鬱だよ。理由はいえないけどさ。
「理由はいえない」なんて、ウソだ。いや、ウソではないのかな。だって、理由そのものがないんだから。理由がないのに憂鬱になるなんて、ぼくはまったく面倒な人間だ。
――君だけじゃないわよ。
――と、いうと。
――なにもなくても、憂鬱になることはあるってこと。
アルネのその声に、なにか含みがあるのを感じた。
――君も憂鬱なの? アルネ。
――当たり前じゃない。私を生んだのは君なんだから。
――すみません。
――責めてるわけじゃないわよ。でも、
――でも、
――憂鬱が2倍になるのも、厭よ。
アルネは立ち上がると、空になったカップをぼくに押し付けた。
――おかわり。
――はいはい。
――「一杯のお茶を持てば」よ。
――なにそれ?
――理由がない憂鬱なら、温かいお茶が溶かしてくれることもあるのよ。
ぼくのカップも空になっていたので、二人分のおかわりを用意した。今度は、その温かさにまどろんだ。
――温かいね。
――ね。
――なんか、大丈夫な気がしてきた。
――よかった、よかった。
アルネは、ふわりと笑った。これで、彼女の憂鬱も溶けてくれたんだろうか。
――ありがとう、アルネ。
――私は、なにもしてませんよ。
――あはは。……次来たときは、なにが飲みたい?
――んー……。
そして、ぼくらの朝が始まった。
*
「僕だけが、鳴いている」
これは、
ぼくと、ドッペルゲンガーのドッペルさんの話。
連載中。
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