何は無くともさ、(今朝は、ホットミルク)
11/18。
5:10起床。
天気は晴れ。
*
――おはよう。
――……。
――おはよう!
――うわ、びっくりした。
――さっきからいたよ。
目の前に、アルネのむっとした顔がある。
ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。
――ごめん、ぼーっとしちゃって。
――それだけ?
――……今朝は何がいい?
――ホットミルク。
ずっと座っていたわけじゃないのに、立ち上がるとふいに目まいがした。今朝のぼくは、なんだかおかしい。
ミルクパンに2人分の牛乳をあけると、少しずつ落ち着いてきた。
――どうぞ、お嬢さん。
――……。
――あれ、いらない?
――ううん。……膜、張ってると思って。
――膜……。
――沸騰させたでしょ。
――かもしれない。
アルネは膜が唇に付かないように、慎重にホットミルクをすすった。
――作り直そうか?
――これがいい。
――「これ”で”いい」じゃなくて?
――ラムスデン現象。
――ん?
――牛乳を温めたら膜が張る現象のこと。
唇にほんの少しだけ付いた膜を舐めとりながら、アルネはぼくをじっと見た。
――何かあったの?
――何もないよ。
――本当?
――ぼくがウソをついてたら、アルネはすぐにわかるでしょ。
――……。
納得していないのか、アルネはホットミルクをひたすらちびちび飲んだ。ぼくも、冷めない内にいただく。すでに、人肌以下に冷めていたけど。
――アルネ。
――何?
――何もないのは、本当だよ。でも、
――でも?
――なんだか、泣きそうだったんだ。
それを口にすると、本当に涙がこぼれてしまいそうで、ぼくはぐっとこらえた。でも、口の中に残っている牛乳の甘さが、ぼくの我慢を崩そうとする。
――何もないのに、泣きそうだったの?
――うん。……たまに、そういうときがあるんだ。
――……。
――「変なの」って、笑ってもいいよ。
――変じゃない。
――そうかな。
――変じゃない。
アルネはきっぱりといって、それから残りの牛乳を飲み干した。ぼくはまだ、ホットじゃなくなったミルクをすすっている。
――まだ、泣きそう?
――……どうだろう。
――胸、貸そうか?
――いやいや。……でも、気持ちはうれしいよ。
――じゃあ、
――じゃあ?
――ホットミルク、もう一度作って。
――「おかわり」ってことだね。
ぼくはもう一度、ミルクパンに牛乳をあけた。今度は沸騰させないように、じっくり温める。じっくり、じっくり……。
――成功した。
――ちょうだい。早く、早く。
――はいはい。
アルネはカップを受け取ると、その表面に膜が張っていないか、じっと目を凝らした。
――今度は大丈夫ね。
――おかげさまで。
――ねえ、
――何?
――もう、大丈夫よ。
アルネは、カップに口を付ける前に微笑んだ。ぼくはその笑顔に、別の意味で泣きそうになった。うれしくて、泣きそうになっていた。
*
「僕だけが、鳴いている」
これは、
ぼくと、ドッペルゲンガーのドッペルさんの話。
連載中。
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