朝なのに、夜を見ていた(今朝は、ホットミルク)
10/28。
6:00起床。
天気は晴れ。
*
――また、ぼーっとしてる。
――アルネ。
アルネが、ぼくの顔を後ろからのぞきこんだ。
ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。
――まーた、なんかあったの?
――なにもないよ。……ただ、
――ただ?
――昨日の夜に見た月のこと、思い出してさ。
ぼくは、あのときの情景を思い出し、目を閉じる。
――真っ白だったんだ。
――真っ白?
――うん。……月って、普段黄色がかって見えるけど、昨日は真っ白だったんだ。
瞼の裏でまた見惚れそうになったけど、アルネがいることを思い出し、すっくと立ちあがった。
――というわけで、今朝はホットミルクにしよう。
――単純。
――他のものをご所望だった? お嬢さん。
――ううん。特に決めてなかったから。
たぶん、ウソだろうな。ぼくは、アルネのやさしさに感謝しつつ、牛乳を注いだ小鍋に火をかけた。
ふつふつと沸騰する寸前で、火を止める。くぐもった甘い匂いが、部屋の中を回遊する。
――はい、どうぞ。
――……おいしい。
――それは、よかった。
――また、腕上げたね。
――温めただけだよ。
アルネは笑っていたけど、その笑みには寂しさを孕ませている気がした。ぼくは、それがどうしても気になってしまった。
――もしかして、
――何?
――なんか、拗ねてる?
アルネは目をぱちくりさせると、ほどよく冷めたホットミルクを一息に飲み干した。その勢いに、ぼくは少しだけおののく。
――拗ねてない。
――じゃあ、今のは一体……。
――拗ねてない。
――……もしかして、一緒に見たかった?
アルネは、また目をぱちくりさせると、口の先を尖らせた。
――それは、ちょっと違う。一緒に見たかったんじゃない。その、真っ白な月を見たかっただけ。
――それはそれで傷付くな……。
――でも、私はそれを見ることはできない。私がここにいられるのは、朝だけだから。
ああ、そうだった。ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。そして、朝にしか現れない女の子。君は、夜に棲むもの達を見ることができない。
――飲み終わった?
――うん。
――じゃあ、額と額くっつけよう。
――は?
――本物を見せることはできないけど、ぼくの頭の中の景色なら、見せてあげられるから。
アルネは、ちょっと呆れつつも、いう通りにしてくれた。ちっちゃな額は、とても温かい。
――どう?
――うん。……本当、真っ白だ。
――きれい?
――きれい。
ぼくらは、朝なのに夜を見ていた。たまには、こんな日もいいかもしれないと思った。
*
「僕だけが、鳴いている」
これは、
ぼくと、ドッペルゲンガーのドッペルさんの話。
連載中。
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