Let me kiss it better!(今朝は、黒豆茶)
10/7。
6:12起床。
天気は曇り。
*
――すっごい眠そう。
――わ、
アルネが、ひょっこり顔を出した。
ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。
――昨日は、遅くまで書いてたから。
――ふうん。
――今朝は、何にする? 寝ぼすけの淹れるお茶でよければ。
――黒豆茶。買ったんでしょ?
二人分のカップにお湯を注ぎ、こうばしい匂いのするティーバッグを沈めた。このまま、5分ほど。
――はい、どうぞ。
――ありがとう。……おいしい、あったかい。
――寒くなってきたからね。
そういえば、今朝のアルネは長袖のワンピースを着ている。ぼくもそろそろ、衣替えしなきゃいけない。
――それにしても、眠い。
――夜ふかしするからよ。
――夜ふかしって。……まあ、夜ふかしなのかな。キリのいいところまで、書いてしまいたかったから。
――あと少しね、夜ふかしさん。
――……うん、あと少しだ。
「あと少し」とは、公募の新人賞の締め切りのことだ。
――長編? 中編? わからないけど、あと少しで完成するよ。
――どきどきする?
――どきどきする。こんなこと、初めてだからさ。
黒豆茶をすすると、ほどよいこうばしさが口の中に広がり、その温かさと共に、ぼくの緊張をほぐしてくれた。
――でも、わくわくもしてる。ぼくが生んだものは、どこまで行けるんだろうって。
――どこへだって行けるわ。世界は広いんだもの。
――だといいんだけどね。まずは、応募先の人達のお眼鏡にかなうかどうか。
――そんなこと、考えすぎない方がいいわ。大切なのは、君がその作品を愛してるかどうかよ。
ちょっとだけ、アルネが深窓の令嬢のように見えた。どうしてなのかは、わからないけど。
――愛してるよ。ぼくは、自分が生んだもの達は、全て愛してる。……君と同じくらいね。
――あら、熱烈な告白。遠慮しておくわ。
――つれないなあ。
――冗談よ。……じゃあ、どんな結果になっても、自分を呪わないでね。
――うん。……まあ、「どんな結果」が「良い結果」になることを祈るばかりだけどね。
アルネはスッと立ち上がると、ぼくのおでこにキスをした。
――Let me kiss it better!
――「痛いの痛いの飛んでいけ」? ……まだ落選どころか応募もしてないんだけど。
――違うわよ。締め切り前で無理してそうだから、体壊さないようにね。
――……はは。お気遣い、ありがとう。
ぼくも、よっと腰を上げた。心優しい女の子に、もう一杯淹れるために。
*
「僕だけが、鳴いている」
これは、
ぼくと、ドッペルゲンガーのドッペルさんの話。
連載中。
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