いつもとちょっとだけ違う”アルネ”の話
9/9。
5:00起床。
天気は晴れ。
*
――あっつい。
――いらっしゃい、アルネ。
アルネ。
ボクにしか見えない、ボクだけの女の子。
以前は時々しか現れなかったけど、最近は週に一度は顔を見せるようになった。
――何飲む?
――ポカリ。
――……。
――何よ。
――ううん、なんでもない。
今まで、コーヒーやお茶を飲んでいるアルネしか、見たことがなかったから。なんだか、くったくたに疲れているみたいなので、ポカリに氷をたっぷり入れてあげた。
――ところで、そんなに暑いかな。だいぶ涼しくなったと思ったんだけど。
――ここはね。……ちょっと、さっきまで暑いところにいたから。
――どこ?
アルネは、唇の前に人さし指を立てて「しーっ」といった。だから、ボクもそれ以上は訊かなかった。
――まあ、涼んでいきなよ。
――うん。
ポカリは1杯分しか残っていなかったので、ボクは白湯を飲んでいた。冷たいものと、熱いもの。なんだか、妙な光景だ。
――変な顔してる。
アルネが、ふいにいった。
――変な顔?
――うんざりしているのに、満足もしている顔。
――……それは、たしかに変な顔だな。
ボクは今、そんな顔をしているのか。はて、と思わず首をかしげる。
――小説はどう?
すでにポカリを飲み終えたアルネも、首をかしげた。
――小説……。今のところは順調だよ。
ボクは今、新人賞に応募する長編小説を書いている。それは、自分にとってとても重要なことで、その分、書けば書くほど、疲弊していく。そんな小説だ。
――ああ、つまり、そういうことなのか。
ボクは、一人納得した。
――ボク、本当に変な顔をしているんだね。
――うん。……でも、悪くない顔だよ。
アルネは、ボクの顔を覗き込むと、ふふっと笑った。
――ありがとう。……ところで、アルネもそんな顔をしているかもしれない。
――そう?
――うん。「やっちゃったなあ」と思っているけど、後悔は一切していない顔。
――ふふ、そうかもね。
アルネは立ち上がると、その場で一度くるりを回った。
――ポカリ、ごちそうさま。もう、行かなきゃ。
――行かなきゃいけない場所が、たくさんあるんだね。
――それは、君も同じでしょ?
ボクが手を挙げると、アルネも同時に手を挙げた。
――いってらっしゃい。
――いってらっしゃい。……お互いにね。
――うん。ボクはボクの、そして君の旅路の無事を祈ってるよ。
*
「僕だけが、鳴いている」
これは、
ボクと、ドッペルゲンガーのドッペルさんの話。
連載中。