I care(お題:王様(死亡)、ロボット、銀河系)
「ここは、どこなんだ」
誰かが言いました。
『ここ』は、見る限り誰かがいた国ではありません。それどころか、地球でもありません。
誰かは、この景色を見たことがある気がしましたが、訪れたことはないと思いました。
「『ここ』は銀河系ですよ、王様」
ふいに、人間のものではない声が聞こえました。
気付けば、目の前に玩具のようなロボットがいました。
巨大な頭部から腕が生えている、珍妙な姿をしています。頭部の丁度真ん中で、丸い明かりが二つ並んで点灯しています。おそらく、そこが目なのでしょう。
「王様。あなたはたった今、崩御なさいました。だから、『ここ』にいるのです」
王様は、先ほどまでどこにいたのかを思い出しました。同時に、自分がどんな状態だったのかも。
「『ここ』は、あの世なのか」
「そうとも言えます、そうでないとも言えます」
「貴殿は……」
「ただの案内人です」
「私は……」
「幽体です」
そこで王様は、身体が存在しないことに気付きました。『ここ』に存在しているのは、意識だけでした。
王様は、自分が亡くなったことに実感を持ち始めました。
「妃と姫は――妻と娘は、どうしているだろうか」
「すみません。それは、私にはわかりかねます」
「そうか……。まあ、死者が生者に干渉するのは、正しくないだろうからな」
「ずいぶん落ち着いていらっしゃるんですね」
案内人は、今まで案内してきた誰とも違う王様に、興味を示しました。
「先が長くないことは知っていたからな。覚悟はできていた。それに……私は充分な人生を送ってきた。私にはもったいないほどの、幸福な人生を」
案内人はライトを二度点滅させると、王様に一礼しました。
「それでは、参りましょう。ご案内いたします」
「その……銀河系にか。そこへ行くと、私はどうなるんだ?」
「星ですよ」
一瞬の沈黙の後、王様は静かに微笑みました。王様は幽体のため、はっきりした形を持っていませんでしたが、案内人には彼が笑っていることがわかりました。
「人が死ぬと星になるのは、おとぎ話ではなかったのだな。……連れていってくれ。地上の妻と娘に、よく見える場所まで」
「ええ。……一番星になりましょう」
案内人は、偉大な王様に敬礼しました。