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夜を纏う、“寂しさ”と生きる――『小さな灯りと鉛筆で描いた線と』に寄せて

どこへも行けない“寂しさ”がある。それは、剥がそうとしても、振りほどこうとしても、付いて離れない。途方もない諦念と共に、肩の上にのしかかる。呼吸もままならない。“寂しさ”は、別の“寂しさ”を吸い込んで、さらに重くなる。どうしようもない。


膨れた“寂しさ”は、暗闇だ。目が慣れることはない。自分の姿もろくに見えない。恐れを遠ざけるには、目を閉じること。なにも見えない。なにも聞こえない。“寂しさ”は、ぼくを呑んで隠す。そして、誰にも見えなくなる。“寂しさ”は、ますます大きくなる。


“寂しさ”は、暗闇。暗闇が、世界になる。目を開けても閉じても、何も変わらない。見えないんだから。でも、そこにあるものが何なのか、ぼくは知っている。暗闇を――“寂しさ”を撫でると、消え入りそうな声で鳴く。“寂しさ”は、生きている。ぼくと共に。


時々、晴れ間が見える。誰かが見える。外の世界が見える。そして、また暗闇が戻る。美しいものも、醜いものも、全てがある。手を伸ばしては愛で、火傷した痕を舐める。最後に、“寂しさ”を一撫で。ぐるぐると喉を鳴らして喜ぶ。“寂しさ”は、微笑むことがある。


暗闇は、恐ろしい。でも、そうじゃないときもある。ぼくを、守ってくれるから。美しさも醜さも、そう感じたのは、暗闇があったから。“寂しさ”が、ぼくに教えてくれたから。苦しかったから。悲しかったから。“寂しさ”は、変わらず肩の上にいる。片時も離れずに。


暗闇より、明るみにいることが増えた。肩は、昔に比べて軽くなった。すばらしいと思う。生きていく上では。でも。ぼくは、“寂しさ”を撫でる。ずいぶん痩せて、ぼくを暗闇に閉じ込めることもできなくなった。


いずれまた、“寂しさ”は膨れるのかもしれない。ぼくを吞み込んで、二度と出してくれないのかもしれない。先のことは、ぼくにもわからない。けれど、これだけはわかる。“寂しさ”は、ぼくに付いて離れない。どんな姿でも。ぼくは、それを忘れない。必ず。


“寂しさ”は、ぼくを苦しめる。そのくせ、“寂しさ”がいなければ、知ることのなかったものも、きっとあった。冷たくて、あたたかくて。気まぐれに暗闇になり、気まぐれに雲を晴らす。やさしい“寂しさ”と、ぼくは生きている。

小さな灯りと鉛筆で描いた線と - Rie Nemoto(2021年)

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