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「それは、しょうがないこと」(今朝はほうじ茶……じゃなくてコーヒー)

10/21。

6:01起床。

天気は晴れ。


――ちょっとちょっと、

――はい。

ほうじ茶をすすったアルネが、ほんの少しむっとした顔をしていた。


ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。

――私、ほうじ茶がいいって、いったよ。

――? うん。

――これ、コーヒーなんだけど。

アルネのカップをのぞきこむと、わかりやすいほどのコーヒーの匂い。ついでに、自分のも。


ほうじ茶もコーヒーも芳ばしい匂いをしているけど、さすがにぼくでもその違いはわかる。


でも、間違えた。

――あー、アレかな。

――アレ?

――この前、ほうじ茶注文したら、コーヒー出てきたんだ。蓋してあったから、飲むまで気付かなくてさ。……なんか、それ引きずってんのかな。

とはいえ、ぼくのうっかりにアルネを巻き込んでしまって申し訳ない。

――ごめんね、淹れ直すよ。

――ううん、これでいい。

――いいの?

――捨てるの、もったいないし。これはこれで、おいしいし。

ぼくは、アルネがウソをついているのを知っている。(全てがウソってわけじゃないけど。)


ぼくもアルネも、ブラックコーヒーは苦手だ。味はそうでもないんだけど、お腹を壊してしまうことが多いから。


なのでぼくらは、ちびちびとそれを味わった。

――交換してもらったんだよ。

――? ほうじ茶とコーヒーの話?

――うん。ぼく、ブラックは飲めないし。そもそも、注文したのほうじ茶だし。でも、

ぼくはそこで、コーヒーをぐいと飲んだ。

――ぼくに飲まれなかったコーヒーは、どこへ行っちゃったんだろうな。

アルネは、当たり前のことをいうべきか逡巡したけど、結局いうことにしたらしい。

――捨てられたんでしょ。

――そうだよね。……やっぱり、そうだよね。申し訳ないな。

――それは、店員さんに? それともコーヒーに?

――どっちも。

ぼくは笑ってみせたけど、アルネはまったく笑っていなかった。

――間違えたのは、君じゃないでしょ。

――そうなんだけどね。

――しょうがないこと。

――しょうがないこと?

――そう。

――しょうがないこと……。

ぼくは、そのことばをしばらく咀嚼してみた。

――自分以外のことで、悩みすぎないの。

――……そうだね。

ぼくもアルネも、いつのまにかコーヒーを飲み干していた。

――もう一杯いる? ……ええと、今度こそほうじ茶を。

――そうね、今度はほうじ茶を。

そんなわけで、今度は間違えないように、ぼくはほうじ茶の茶葉を手に取ったのだった。





「僕だけが、鳴いている」


これは、
ぼくと、ドッペルゲンガーのドッペルさんの話。


連載中。


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相地
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