「それは、しょうがないこと」(今朝はほうじ茶……じゃなくてコーヒー)
10/21。
6:01起床。
天気は晴れ。
*
――ちょっとちょっと、
――はい。
ほうじ茶をすすったアルネが、ほんの少しむっとした顔をしていた。
ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。
――私、ほうじ茶がいいって、いったよ。
――? うん。
――これ、コーヒーなんだけど。
アルネのカップをのぞきこむと、わかりやすいほどのコーヒーの匂い。ついでに、自分のも。
ほうじ茶もコーヒーも芳ばしい匂いをしているけど、さすがにぼくでもその違いはわかる。
でも、間違えた。
――あー、アレかな。
――アレ?
――この前、ほうじ茶注文したら、コーヒー出てきたんだ。蓋してあったから、飲むまで気付かなくてさ。……なんか、それ引きずってんのかな。
とはいえ、ぼくのうっかりにアルネを巻き込んでしまって申し訳ない。
――ごめんね、淹れ直すよ。
――ううん、これでいい。
――いいの?
――捨てるの、もったいないし。これはこれで、おいしいし。
ぼくは、アルネがウソをついているのを知っている。(全てがウソってわけじゃないけど。)
ぼくもアルネも、ブラックコーヒーは苦手だ。味はそうでもないんだけど、お腹を壊してしまうことが多いから。
なのでぼくらは、ちびちびとそれを味わった。
――交換してもらったんだよ。
――? ほうじ茶とコーヒーの話?
――うん。ぼく、ブラックは飲めないし。そもそも、注文したのほうじ茶だし。でも、
ぼくはそこで、コーヒーをぐいと飲んだ。
――ぼくに飲まれなかったコーヒーは、どこへ行っちゃったんだろうな。
アルネは、当たり前のことをいうべきか逡巡したけど、結局いうことにしたらしい。
――捨てられたんでしょ。
――そうだよね。……やっぱり、そうだよね。申し訳ないな。
――それは、店員さんに? それともコーヒーに?
――どっちも。
ぼくは笑ってみせたけど、アルネはまったく笑っていなかった。
――間違えたのは、君じゃないでしょ。
――そうなんだけどね。
――しょうがないこと。
――しょうがないこと?
――そう。
――しょうがないこと……。
ぼくは、そのことばをしばらく咀嚼してみた。
――自分以外のことで、悩みすぎないの。
――……そうだね。
ぼくもアルネも、いつのまにかコーヒーを飲み干していた。
――もう一杯いる? ……ええと、今度こそほうじ茶を。
――そうね、今度はほうじ茶を。
そんなわけで、今度は間違えないように、ぼくはほうじ茶の茶葉を手に取ったのだった。
*
「僕だけが、鳴いている」
これは、
ぼくと、ドッペルゲンガーのドッペルさんの話。
連載中。
いいなと思ったら応援しよう!
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
「サポートしたい」と思っていただけたら、うれしいです。
いただいたサポートは、サンプルロースター(焙煎機)の購入資金に充てる予定です。