Cult(お題:「不死の呪い、井戸、遠吠え」)
「これで、この村は安泰だな」
「ええ。……ああ、これで私も不死になれるのですね。床に伏している私の娘も、いずれ娘が産む子どもも!」
「全ては、神のお導きの元に――」
そして蓋が一枚、また一枚と閉じられた。
村人達のささやきも遠のき、完全な静寂と暗闇が訪れた。視覚も聴覚も意味を失くした今、頼りになるのは嗅覚だけ。けれどその嗅覚も、むせ返るようなどぶの臭いに潰されそうだった。
村外れとはいえ、井戸は井戸だ。枯れていないだけ、ましだろう。汚れているとはいえ、溜まりがある場所へ投げ込まれたのは、彼らの恩情だったんだろうか。
そんなはずはない、な。汚れているのは、井戸ではなく、私の方。私は、おぞましい呪いに憑かれた厄介者なのだから。
「ミィ」
二度と開くはずのなかった蓋がほんの少しずれ、そこから射し込む月光が私の頬を照らした。
開けることを禁じられた蓋に、触れる者。人間ならば左右に付いているはずの耳が、頭の上にぴんと立っていることで、すぐにわかる。
「大丈夫か?」
「カィ」
私の唯一の友人。
私と同じように、村人から畏れられ、遠ざけられた『化物』。
「今夜は、ヒトの姿なのね。……こんなに明るいから、満月だと思ったわ」
「ヒトの姿でも、出来ることはある。……今、助ける」
カィが全ての蓋を剥ぎとろうとしたところで、私は制止した。
「必要ないわ」
自分より大きな獣と遭遇したときのように、カィの耳に緊張が走る。
「どういう意味だ?」
「そのままの意味。……これは、村人が望んだこと。でも、私が望んだことでもあるの。この静寂と暗闇の中で、永遠を生きることを」
カィは怒りのあまり、摑んでいた蓋をそのまま握り潰してしまった。カィの気持ちは、よくわかった。それでも私は、この場所で生きることを選んだ。
「カィ」
何より、カィをこれ以上苦しませたくなかった。私と同じ『化物』のカィを。
「カィには、これからも生きてほしい。私がいなくなった今、あなたにはそれが出来るはずだから」
*
完全な暗闇と静寂のはずだった。カィが蓋を一枚壊してしまったから、開かずの井戸にわずかな穴が開いてしまい、日光が井戸の中まで漏れるようになったけど。
でも、直す人はいない。ここに近付く人は、もういない。村人も、カィも。
「ミィ、約束するよ。……一方的だけど」
今夜は、満月。カィとの約束の夜。
「満月になれば、オレは狼に戻る。その夜だけは、どうか耳を澄ましてくれ」
完全な暗闇と静寂。けれど、今夜は満月の強い光が井戸の底を射し、そして――狼の遠吠えが聞こえる。カィが生きている証。私が生きるためのよすが。
月光に照らされた自分の頬が熱い。月光とは、こんなに熱いものだったのか。
その熱が、月の熱ではなく、自分が流した涙の熱であることに、私は永遠に気付かないままでいる。
*
お題提供者:架森 のんさん(@non_kamori)