「なんでもないよ、」
「カトル、カトル」
「なあに?」
「ぼく、すごいことを発見したよ」
「すごいこと?」
「こうして、こうやってね」
「うんうん」
「こうして、カトルをぎゅっとしてね、」
「あら、あなたがこうしない日なんてあったかしら」
「そうじゃないよ、カトル。目をつぶってみて」
「……」
「……」
「……あら、花の匂いがする。カモミールかしら」
「その匂い、カモミールなんだ!やっとわかったよ」
「カモミール……。植えた覚えはないけど。
種が、どこかからやって来たのかしら」
「違うよ、カトル。この匂いは、カトルからするんだよ」
「そうなの? でも、私はカモミールなんて……」
「ううん、カトルのだよ。
こうやってぎゅっとしてると、この匂いがするんだ」
「自分の匂いなんてわからないから……ああ、もしかして」
「……?」
「このちっちゃな鼻が、そうさせているのかもね」
「ぼくの鼻?」
「ねえ、タタン。
どうして、私からカモミールの匂いがするのかしら?」
「んーんー……わかんない。
でも、いい匂いだよ。それだけじゃだめなの?」
「だめってことはないわ。……ただ」
「ただ?」
「……そうだ、タタン。
せっかくだから、庭の花を少し摘んでいきましょう。
そうしたら、いい匂いがもっと家の中に溢れるわ」
「そうだね。ねえ、カトル」
「なあに?」
「カトルは、本当にいい匂いがするんだよ。
それは、僕がやってることじゃないんだよ」
「……」
「たしか、ハーブもだいぶ大きくなってたよね。お茶にしようよ」
「そうね。昨日焼いたクッキーも余っていたし、いいお天気だし、
ここでしましょうか」
「うん!」
ねえ、タタン。
私から、花の匂いがするのは。
タタン。
あなたが、私のことを、きれいだと思ってくれているからよ。
いいなと思ったら応援しよう!
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
「サポートしたい」と思っていただけたら、うれしいです。
いただいたサポートは、サンプルロースター(焙煎機)の購入資金に充てる予定です。