ドッペルさんと、僕
ドッペルさんとは、ドッペルゲンガーであり、つまるところ、もう一人の僕だ。ドッペルさんは僕で、僕はドッペルさん。だから、ドッペルさんについて語るのは、僕について語るのと同じことだから、取り立てて云うほどのことは、何も無い。一つだけ特徴を挙げるとしたら(もしくは、強いて特徴を挙げるとしたら)それは、会話ができることだ。
ドッペルさん(以下、D):やあ、
ドッペルさんは、神出鬼没。いつでも、どこでも、現れる。
僕(以下、I):……ひさしぶり。
いつでも、どこでも、現れるから、僕の方も、あんまり驚かなくなった。
D:呼んだ?
I:いや、呼んでないけど。
D:それはないでしょ。だってボク、キミに呼ばれないと、出てこれないんだもの。
I:でも、
D:それ、それ。
I:……これ? レポートパッド? レポートパッド、使ってたから?
D:うん。それを使って、ボクらは話すことができるんだから。
レポートパッドじゃなくても、PCでも、スマホでもいい。そこが机上なら――ドッペルさんのことばを可視化するツールがあれば、僕らは会話ができる。
D:キミ、今日も目が死んでるね。
I:それ、君もだろ。僕は、君なんだから。
D:あっはっは。
I:でも、ドッペルさんは、僕よりちょっと……いや、だいぶ陽気だよね。
D:まあ、陰気な奴が2人もいても、ねえ。
I:そりゃ、そうだけど……。
D:もしくは、
I:もしくは?
D:ボクは、本能。キミは、理性。
もしくは、
ボクは、理想。キミは、現実。
だから、だよ。
I:……どっちも正解、かな。
きっと、そうに違いなかった。じゃなきゃ、自分と自分の会話なんて、成立しない。ドッペルさんと、僕。理想の自分と、現実の自分。なりたかった自分と、なれなかった自分。どっちも僕だけど、どっちも僕じゃない。だって、僕らは合わさることで、初めて「僕」になるんだから。
I:……それにしても、
僕は、僕らのことばで埋めつくされた、レポートパッドを見る。
I:こんなに生産性の無い会話、なかなか無いよね。
D:……生産性、ねえ。何か、産みたいの?
I:いや、今はいい……。
D:なんで?
I:レポートパッドのスペース、無くなってきたから。
D:あっはっは。1つの会話につき、1ページが限度?
I:うん。頭、痛い。
D:じゃあ、この辺でお暇するよ。
I:ドッペルさん、
D:うん?
I:次に会うときも、「ひさしぶり」になるのかな。
D:さあ。それは、キミ次第でしょ。
I:?
D:だって、ボクは、キミなんだから。いつでも、どこでも、キミのそばにいるよ。
ドッペルさんは僕で、僕はドッペルさんだ。
ドッペルさんは、いつでも、どこでも、僕のそばにいる。
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