イラスト×SS① りんによる後編
むかしむかしあるところに、石でできた国に、石でできた立派なお城がありました。
そのお城には、1人のお姫さまが住んでいました。
立派な石造りのベッド
立派な石造りのカウチ
立派な石造りのドレッサー
立派な石造りのティーセット
立派な石造りのシャンデリア
立派で美しい彫刻の施された石造りの物に囲まれた、お姫さま。
立派で美しい彫刻の施されているけれど冷たい石に囲まれた、お姫さま。
ある日お姫様は言いました。
『おとうさま、わたくしもう石はたくさんですの。もっと柔らかであたたかなものに囲まれてみたいものですわ』
その日から、お姫さまはため息ばかりの毎日です。
来る日も来る日も、冷たい石造りの家具を見つめて寂しげに長いまつげを震わせるのでした。
王さまは、困りました。
冷たい石に囲まれたこの国で、お姫さまの笑顔は太陽のあたたかさにも似た、国民に愛されるものだったからです。
なんとか姫に笑って欲しくて、毎日プレゼントを渡します。
フワフワの子犬……の彫刻
石版に刻まれた優しい言葉
太陽のように輝く宝石
どれもお姫さまの笑顔は引き出せません。
そこで王さまは、国中に御触れを出しました。
【姫の求める"柔らかであたたかなもの"を用意できた者に金貨を授ける】
次の日からお城は人で溢れました。
思い思いの"柔らかであたたかなもの"を手にした人々。
この石の国にどんな"柔らかであたたかなもの"があるのか見に来た人々。
そして、大好きなお姫さまの笑顔を待ち望む人々。
集まった品物は
フカフカのクッション
羊の皮を鞣した敷物
ベッドサイドにちょうどいいステンドグラスのランプ
などなど
お姫さまは、ひとつひとつ手に取って眺めては、やはりため息をつくのでした。
そして、最後にお姫さまに差し出されたのは、小さな茶色い輪。
どうやらあたたかいらしく、湯気がたっている。
『お姫さま、ぜひ食べてみてください!』
持ってきたのは、国境に住むパン屋でした。
『これはたしかにあたたかいけれど、可愛くも柔らかくもなさそうですわ』
それでも、最後の候補でしたので、仕方なくひとつ摘んで口に運びました。
するとどうでしょう! お姫さまの唇が優しくほころんだではありませんか。
『まぁ、これはなんというものですか?とっても甘くて優しい味がしますのね』
石に囲まれたお姫さまは、はたと気づきました。
『わたくしが嫌だったのは我が国の石ではなくて、石のようにつまらない毎日でしたのね。でも、それはわたくしが新しいことを知ろうとしなかったからですわ』
『お姫さま、これは隣国で流行のドーナツという菓子にございます。見た目も様々にデコレーションできる、楽しい菓子です』
『まぁ!それでは早速明日から城でも作らせましょう。我が国の良きところと、隣国の良きところを合わせたドーナツをいつかパーティで披露したいものですわ』
次の日からのお城は、まるでドーナツ工場のようでした。
国中に甘い香りがただよって、人々はお姫さまの笑顔のために、せっせとドーナツに合いそうな特産品を持ち込みます。
そして、ため息ばかりだったお姫さまは、満開の笑顔でたくさんのドーナツの試食をするのでした。
めでたしめでたし
【石とドーナツの国】
舞台を創ること以外にも創作がしたい、これまで舞台で表現してきた物語や世界をもっと知っていただきたい、楽しんでいただきたい……そんな思いから始めたnoteです。 細々と更新しておりますが、少しでも楽しいをお届けできていれば幸いです。 もしよろしければ、サポートよろしくお願いします!