お題リレー⑧ ゆかによる前編
「妖精さんの仕業だよ」
ふと、幼い頃の記憶が蘇った。といっても、小学校の高学年にはなっていたはず。
年末、親族の中で唯一パソコンとプリンターを所持していた我が家にみんなで集まって、年賀状を作るのが恒例となっていた。それぞれが選んだ文字や絵を、何十枚も印刷していくプリンターを、私は見つめていた。いや、正確に言うと、細い隙間から覗く、何か光が無数に走って、決められたデータに沿って4色のインクを吹き付けていくその様を見ていたのだ。
そんな私を見て、炬燵でみかんを頬張っていた叔父さんが言った。
「不思議でしょ、こんなに速く年賀状が何枚もできて。これね、妖精さんの仕業だよ。ホラ、妖精さんがバーって一生懸命走ってるのが見えるでしょ?」
私は既に小学校の高学年だったし……今でもプリンターの仕組みなんて正確にはわからないけども、でも「妖精さんの仕業」なんて、そんなはずがないことはわかりきっていた。
この叔父さんは何を言っているんだろう、私を子ども扱いして……と、複雑な心境になったのを強く覚えている。私は怒ったような、悲しいような、面白がるような、不思議な気持ちのまま叔父さんをジッと見つめた。でも叔父さんは、ただカラカラと笑って次のみかんを剥き始めるだけだった。今思えば、叔父さんとは年に一度しか会わなかったし、その当時叔父さんの子どもが本当に幼い頃だったのだから、子ども相手の仕方がそちらに寄っていたのかもしれない。
……と、昔話に耽ったって、目の前のコピー機が盛大な紙詰まりを起こしている事実は変わらないんだった。あーあ。
私は頭を小学校高学年から社会人4年目に切り替えて、観念してコピー機のフタを開けた。
《あとがき》
まだまだお正月気分が抜けずにいるようですね笑
後編では「切手」がアイテムとして必要となりますが……
どうなるでしょう? わくわく!
2022.1.25