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さあ、また冒険ね ★40★

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「うん。『ポニイテイル』ってタイトルの物語をどどーんと飾るの。英語とかスペイン語とかいろいろな国の言葉に訳して。そして世界中の人に、絶滅しかけてる動物と、あれこれ心配ばかりしている子どもを救うための物語を寄せてもらうの。こんな感じの、かわいい動物たちが登場するフェアリテイルを書いて送ってねって。それを集めてサイトに並べて。絵が得意な子はイラストでもいい。詩が得意な子は詩でもいい。とにかくそこにアクセスすればいつでも、現実なんかにはゼッタイに負けないパワーがもらえる、超キラキラな天の川みたいなサイトを作りたいの」

「すごいアイデア!」

「なるほど、神さまとか妖精さんみたいなサイトか」

「そうそう。絶滅危惧種のあどちゃんみたいに——」

鈴原風は花園あどのほっぺをつついた。

「こまった顔なんてちっともしないで、のんびりと、夢と想像の力をひたすら信じる人間のためのサイトを作りたい。賞金なしだし、誰も送ってこないかもしれないけど、あどちゃんの創った物語がそこにあるだけで、もう、思いっきり十分だから!」

城主レエがブラックフォールのような髪をゆらしながら、ユニコーンの角をあどに握らせた。

「さあ、また冒険ね」

「も、もしかしてウチ、いまから話すの?」

「そうだよ。物語の最初からラストシーンまで、ノンストップ、ひと筆書きでお願いね!」

「そんなのムリ!」

「夢と想像力のシンボル、ユニコーンの力をもってしてもムリ?」

「いや、ユニコーンならヨユウだけど、乗るのはウチだもん。前みたいに短ければいいけど、最後まででしょ? 途中で振り落とされちゃわないかな。最近調子悪いし」

「そこは愛と勇気でしがみつく! マカムラ君、書く用意はOK?」

「ちょ、ちょっと待って、今、新しいノート出すから」

「新しいノート?! ゲゲ、そんな長いのを期待?」

「マカムラ、漢字はひらがなでもいいよ、あたしがサイトにアップするとき打ち直すから」

「OK!」

「ひいいい」

「ではユニコーンの出走前に、いまからポニイテイルの最終リクエストを受け付けます。お1人さま1つ。どんな話がいいかリクエストをしてください」

『ポニイテイル』の管理人の呼びかけに、レエが手を挙げる。

「あたしはすごい図書館が登場する話がいいです」

「はい、受け付けました」

マカムラがペンを持った手を挙げる。

「オレは、宇宙のシーンを入れてほしい」

「宇宙! スケールが大きくなってきました! レミ先生は?」

「そうだなあ……抽象的だけどキラキラの、海みたいにどこを見てもまぶしい物語」

「はい。キラキラ決定です! では最後はあたしから。ええと、パパとかおばあちゃんも楽しく読めるように、あまり子どもっぽくない、いい感じのラブストーリーが入ってて欲しいね」

「うぎゃあ! ラブストーリーとか無理!」

「では、エントリーを締切ります。あどちゃん、ユニコーンにまたがった? 冒険の準備はOK?」

「ひえええ。ええと、図書館に宇宙、キラキラのラブストーリー。おい、ユニコーン、覚えたか?」

あどは金色の角をこする。角はぐぐっと輝きを増した。

「うわー、緊張するなあ。コレね、あれこれ自分で考えないようにするのが難しいんだよ。ぼーっとしなくちゃいけないんだよ」

「うおお! 物語を後戻りなしのフルにひと筆書きかよ。見てるこっちもドキドキするな」

「ちょっと、プレッシャーかけないでよ! ウチ、泣きそう!」

「あどちゃん、落ち着いて。ほら、深呼吸」

「は、はい! すぅぅ、はぁぁぁああ」


涙ぐむあどのすぐとなりへ、妖精オルフェが舞い降りる。

あどにとっての妖精オルフェ。レミ先生は耳元でそっとささやいた。

「あどちゃんて……5年生くらいの頃はおかっぱのイメージだったのに、だいぶ髪のびたねー。ひょっとしてのばしてるの?」

栗色の髪の毛の妖精はあどの黒髪をやさしくなでた。少女はレミ先生の少しとがった耳にささやき返す。

「バレました? 卒業式のために、今からのばしているんです」

「へえ。どんな髪型にするつもり?」

「いひひ。みんなにはナイショですよ」

「うん! なになに」

「ド派手な——ユニコーンみたいな角を作ろうかなって」


妖精はあどのハムスタチックにふくらんだほっぺへ軽く口づけをした。

「ラプソードスたちは、現代人では信じられないくらい長い抒情詩も、すらすら歌い上げることができたの」

「は、はい」

「それはね、結びつきを信じ切れていたからだと思うの。世界と人の間の、ものすごい結びつきの力を——」

オルフェはあどが手首につけていたもらったばかりの腕輪を解き、あどののばし中の黒髪を後ろで一つに束ねてその腕輪で結んだ。緋色の石がキラリと光る。

「いい、あどちゃん。あとはたくさんの素敵なイメージをしっかり束ねるだけ。好きな人や動物やもので頭と心をいっぱいにして」

「はい!」

「きっと大丈夫。その証拠に……」

オルフェは乙女な手鏡を音もなく取り出すと、結わえられた花園あどの髪をそこに映した。

「ほら見て。かわいいポニイテイル!」


『ポニイテイル』★41★につづく


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